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宇宙「金星の雲に生命体が存在しうる」との仮説が示される
「理論上、金星の雲に生命体が存在しうる」NASA/Jet Propulsion Laboratory-Caltech
<濃硫酸の酸性雲で覆われた金星で生命体が生存可能な空間を雲のなかにつくりだすという仮説が発表された>
主に二酸化炭素からなる厚い大気があり、表面温度が平均460度となる金星は、濃硫酸の酸性雲で覆われた極めて過酷な環境だ。しかしこのほど、「理論上、金星の雲に生命体が存在しうる」との説が示された。
金星では生成されないはずのアンモニアが検出された
米マサチューセッツ工科大学(MIT)、英カーディフ大学、英ケンブリッジ大学の研究チームは、金星の酸性環境を中和し、生命体が生存可能な空間を雲のなかにつくりだす化学経路を特定し、これに基づく仮説を2021年12月28日付の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した。
金星の大気には、酸素がわずかながら存在し、水蒸気が想定以上に多く、球状の硫酸の液滴とは異なる非球状の粒子が存在するといった不可解な異常が長年観測されてきた。
なかでも最も不可解なのは、1970年代にソビエト連邦の金星探査機「ベネラ8号」やアメリカ航空宇宙局(NASA)の「パイオニアビーナス探査機」によって暫定的に検出されたアンモニアの存在だ。アンモニアは金星での既知のいかなる化学プロセスでも生成されない。
研究論文の責任著者でマサチューセッツ工科大学のサラ・シーガー教授は「金星にアンモニアは存在しないはずだ。アンモニアは水素と窒素の化合物だが、金星に水素はほとんど存在しない。金星の環境下で存在しないはずの気体が存在するとしたら、生命体によって生み出された可能性を疑わざるを得ない」との見解を示す。
「生命体がそこに存在し、生息環境を変えているかもしれない」
研究チームは、一連の化学プロセスをモデル化し、「アンモニアが存在するとしたら、アンモニアが硫酸の液滴を中和する化学反応を次々と促し、金星の雲で観測された異常についてもほぼ説明できる」ことを示した。
雲にアンモニアがあれば、これが硫酸の液滴に溶けて生命体が生存可能な状態に中和する。その結果、雲の酸性度は、一部の生物が生息する地球の極限環境と変わらなくなる。
また、研究チームは、アンモニアの発生源について「稲光や火山噴火ではなく、生命体なのではないか」と考察している。研究チームの分析によると、稲光や火山噴火、隕石衝突では十分なアンモニアを生成できないためだ。生命体であれば可能かもしれない。
実際、ヒトの胃の中には、アンモニアを生成して酸性度の高い環境を中和し、生息しやすくする微生物が存在する。シーガー教授は「私たちが知る限り、金星の雲の液滴の中で生存可能な生命体はない」としたうえで「重要なのは、生命体がそこに存在し、生息しやすくなるように生息環境を変えているかもしれないという点だ」と指摘する。
シーガー教授らは、金星の大気中に生息するかもしれない生命体を探査する民間の金星探査ミッション「ビーナス・ライフ・ファインダー・ミッション」のもと、2023年以降、金星に探査機を送り込み、この仮説を検証していく方針だ。
Are There Aliens on Venus? | Planet Explorers | BBC Earth