最新記事

生物

最大の無脊椎動物、自動車サイズの巨大なヤスデの化石が発見される

2021年12月24日(金)18時10分
松岡由希子

不可能と思われていた大きさのヤスデの化石が発見された Poto: TU Bergakademie Freiberg

<イギリスで自動車サイズの巨大なヤスデの化石が発見された。幅55センチ、長さ2.63メートル、重さ約50キロと推定され、既知で最大の無脊椎動物だ>

「地球上で最も脚の多い生物」として話題を集めた1306本の脚をもつ新種のヤスデが豪州で見つかったのに続き、自動車サイズの巨大なヤスデの化石が英国で発見された。その研究成果は、2021年12月21日、ロンドン地質学会の学会誌「ジャーナル・オブ・ジオロジカル・ソサエティ」で発表されている。

【参考記事】1306本の脚を持つ新種のヤスデが発見される

幅55センチ、長さ2.63メートルの最大の無脊椎動物

英ケンブリッジ大学の研究チームは、2018年1月、イングランド北東部ノーサンバーランド州ホウィック湾の海崖に落下していた長さ2メートル、幅3メートル、高さ8メートルの砂岩で、約3億2600年前の石炭紀に生息したヤスデの一種「アースロプレウラ」の化石を偶然発見した。

3-two-column.jpg

イングランド北東部ノーサンバーランド州で発見されたアースロプレウラの化石 Neil Davies

この砂岩は2017年4月から2018年1月までに崖から落下した後、徐々に侵食していたとみられる。2018年5月には、政府当局と地主の許可を得、研究チームが4人がかりで、長さ76センチ、幅36センチの標本を取り出した。

このアースロプレウラの元の大きさは、幅55センチ、長さ2.63メートル、重さ約50キロと推定され、既知で最大の無脊椎動物となる。アースロプレウラの化石はこれまでにドイツで2体見つかっているが、いずれもこれより小さい。

アースロプレウラは、石炭紀のグレートブリテン島など、かつて赤道上にあった地域でのみ存在したとみられる。グレートブリテン島が赤道付近にあった石炭紀のノーサンバーランド州は熱帯気候であった。これまでの研究では石炭湿地で生息していたと考えられてきたが、研究チームの分析によると、「アースロプレウラは海岸近くの広い森林を好んでいた」という。

ここまでの大きさは不可能と考えられていた

現代の地球は大気中の酸素濃度が十分でないため、ヤスデや昆虫などの節足動物がアースロプレウラのような大きさになることは物理的に不可能だと考えられている。

これまでアースロプレウラの巨大さは大気中の酸素濃度の高さによるものだと考えられてきた。しかし、この化石は大気中の酸素濃度がピークに達する以前に堆積した岩から見つかっていることから、大気中の酸素濃度だけがその要因ではないとみられる。

アースロプレウラの頭部はまだ見つかっていないため、その餌生物については明らかになっていない。研究チームは、その大きさから栄養価の高いものを食べていたのではないかと考察。研究論文の筆頭著者でケンブリッジ大学のニール・デービス博士は「当時、栄養価の高い木の実や種が豊富にあった。他の無脊椎動物や両生類などの小さな脊椎動物を食べていたかもしれない」と述べている。この化石は2022年、ケンブリッジ大学のセジウィック地球科学博物館で公開される見通しだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中