最新記事

移民

非正規金融ネットワーク「ハワラ」、欧州密航あっせんで利用急拡大

2021年12月13日(月)11時16分
仏ダンケルクの海岸付近にできたクルド移民のキャンプ

欧州への移民の間で「ハワラ」と呼ばれる非公式金融決済ネットワークの利用が増え続けている。写真は11月27日、仏ダンケルクの海岸付近にできたクルド移民のキャンプ(2021年 ロイター/Juan Medina)

イラク・クルド自治区出身のカイワン・フセインさん(26)はベラルーシ国境から欧州連合(EU)域内に入った後、ドイツに到着した11月23日、ワッツアップを通じて故郷の兄弟にたった一言「OK」というメッセージだけを送信した。

これはフセインさんから家族に対して、出身地のランヤにいる仲介人に預けている3500ドルを密航あっせん者に支払うのを許可する合図だった。

フセインさんはこのメッセージを発信した後、フランス北部から英国に向かう旅程の一時中断を余儀なくされた。ドイツ東部のゲルリッツで警察が身柄を拘束し、数日間移民センターに拘置されたからだ。

ただ、そのおかげでフセインさんは命拾いしたことになる。そのまま移動を続けていれば、タイミングや位置から考えると11月24日に英仏海峡で転覆した密航者のボートに乗船していたと思われるという。

11月28日朝にフランスの海岸地帯に着いたフセインさんは、ここでまた「OK」と発信し、家族に350ユーロ(約400ドル)の新たな支払いを促した。自身が寝泊まりしているダンケルク郊外の仮設収容施設のテントで翌日、明らかにした。

こうしたフセインさんの体験は、欧州移民の間で「ハワラ」と呼ばれる非公式金融決済ネットワークの利用が増え続けているという話と一致する。

この決済システムは、簡単に足がつく書類手続きがなく、密航あっせん者らは当局の監視を逃れ、国境をまたぐ資金のやり取りをせずに済む。移民希望者にとっても、多額の現金を持ち運ぶ必要がなく、詐欺や盗難のリスクも低下するメリットがある。

ハワラは、信頼できる仲介人のネットワークが銀行システム以外で決済を行う仕組みで、その起源は何世紀も前にさかのぼる。5年ほど前にはバルカン諸国経由の移民にしばしば使われてきたが、現在は欧州中部から英国を目指す人々に広く利用されていることが、ロイターがフランス北部で聞いた20人の移民希望者の話で分かった。彼らは全員がハワラを使ったと語り、これが欧州への密航代金支払い手段の主流になったとみている。

フセインさんがフランス到着時に所持していた現金は、たった50ユーロ(57ドル)だけ。「(もっと多く)現金を持っていたなら、警察に没収されたかもしれない」と口にした。ハワラを使うことで、自らが到着を知らせて家族に密航あっせん者宛て支払いを許可するまでは、ランヤの仲介人が責任をもって資金を預かり続けていた。フセインさんによると、もし、目的地にたどり着けなければ、仲介人から家族にお金が戻ってくるので、一定の保証が提供されるという。

今後、フセインさんは最終目的地の英国に着いた時点で、同じような方法であっせん者側に代金を支払う計画だ。複数の移民に取材したところでは、英仏海峡をボートで渡る「費用」は、最大で約3500ユーロが現在の相場だという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸

ワールド

中国で一人っ子政策の責任者が死去、ネットで批判の投

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ

ビジネス

物価目標「着実に近づいている」と日銀総裁、賃上げ継
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中