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地球史地球の水の起源を解明!? 「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の試料を分析
太陽風が小惑星に衝突すると、岩石の化学組成に影響を与え、岩石中の物質から水が生成される University of Glasgow/YouTube
<小惑星イトカワの岩石で水が生成されるプロセスが明らかに>
地球表面の約71%は水で覆われているが、その起源についてはまだ解明されていない。地球の水の起源については「太陽系の炭素質の小惑星『C型小惑星』が地球形成期に衝突し、水がもたらされた」との仮説が示されている。
しかし、地球に落下したC型小惑星の炭素質球粒隕石の同位体フィンガープリントを分析した研究結果によると、隕石の水に含まれる水素と重水素の割合が地球のものと一致したのは一部であり、概ね、地球のマントルや海の水とは異なっていた。つまり、地球の水の一部はC型小惑星を起源とする可能性があるものの、地球形成期に太陽系の別のどこかからも水がもたらされたと考えられる。
探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の表面から採取した試料を分析
そこで、英グラスゴー大学、豪カーティン大学らの研究チームは、C型小惑星よりも太陽に近い岩石質の「S型小惑星」に着目し、2010年に帰還した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」がS型小惑星「イトカワ」の表面から採取した試料を分析した。一連の研究成果は、2021年11月29日、学術雑誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表されている。
小惑星イトカワの姿
研究チームは、試料を構成する元素の3次元空間分布と化学組成測定を行う最先端の材料分析手法「アトムプローブトモグラフィー(APT)」を用い、イトカワの試料を内側50ナノメートルにわたって細部まで分析した。
その結果、太陽風によって岩石が変質する「宇宙風化」により、かんらん石の表面下で水が生成されていたことがわかった。研究論文の共同著者でカーティン大学の惑星科学者フィル・ブランド特別教授は、この試料の分析結果をふまえ「岩石1立方メートルあたり約20リットルの水が存在するだろう」と推測している。
空気がない天体の表面では、水素やヘリウムのイオンが太陽から宇宙空間へと絶え間なく流れる「太陽風」によって岩石や鉱物が変質する「宇宙風化」が起こる。太陽風の水素イオンが小惑星の表面に衝突すると、表面から数十ナノメートル下まで浸透して岩石の化学組成に影響を与え、岩石中の物質から酸素原子が放出されて水が生成される。この研究では、イトカワの試料の表面に水素イオンを照射する実験を行い、水分子が生成されることも確認した。
Space dust analysis could solve mystery of the origins of Earth's water
月や小惑星ベスタなど、空気のない他の天体でも起こりうる
研究論文の共同著者で米ハワイ大学マノア校のホープ・イシイ博士は「イトカワで水を生成させた宇宙風化のプロセスは、月や小惑星ベスタなど、空気のない他の天体でも起こりうるだろう」と考察。また、研究論文の筆頭著者でグラスゴー大学のルーク・ダリー博士は、宇宙飛行士の月面着陸を目指すアメリカ航空宇宙局(NASA)の「アルテミス計画」に言及し、「宇宙風化によって月面にもイトカワと同様の水源があれば、この計画の達成を後押しする貴重な資源となるだろう」と述べている。