米コロラド州の山林火災、ビーバーの生息地だけ大火を免れていた
ビーバーが川を堰き止めた一帯は、山火事の被害を免れた Credits: PHOTOGRAPH by JOE WHEATON, UTAH STATE UNIVERSITY DEPARTMENT OF WATERSHED SCIENCES
<「土木工事」を得意とし、せせらぎを湿地帯に変えるビーバー。生息地の自然は大火を免れ、天然の消防士として注目されている>
米コロラド州北部のキャメロン・ピークで昨年8月、州史上最大となる大規模な森林火災が発生した。鎮火に3ヶ月半を費やし、国立公園内の20万エーカー以上が失われた。日本の京都市全域に相当する。
現場は現在でも荒地となっているが、緑豊かな姿をいまも残している地区が点在する。これらのエリアは周囲の焼け跡と異なり、地面一面が草で覆われ、木々は青々とした葉を誇る。
草木を保護した天然の消防士として注目されているのが、この地に住むアメリカビーバーだ。北はアラスカから南はメキシコまで北米の広い地域に分布する。
ビーバーたちは巣作りのため木を集め、草木や石などと組み合わせてダムを築く習性がある。また、地面を掘り下げることを得意としており、水路を網の目のように張り巡らせて移動路のネットワークを完成させる。陸上では外敵に狙われやすいビーバーだが、こうして作り上げた水域のなかでは安全に過ごすことができる。
副次的な効果として、川が堰き止められることで水位が上昇し、巣の上流側では部分的に川幅が広がる。また、細かな水路によって水が行き届きやすくなり、周囲に豊かな湿地帯を形成する。
こうしてかねてから作られた地形が天然の防火帯となり、周囲の植物はコロラドの大火災を生き延びることができた。コロラド州のNPOラジオ局『KUNC』は、「コロラド最大の山林火災でさえ、ビーバーには敵わない」と伝えている。
同局は「この湿地帯はビーバーたちの活動のおかげで難を逃れた」「周囲の木々には焼け跡がみられるが、それ以外ではわずか1年前、まさにこの場所がコロラド最大の森林火災の中心地であったと想像することは難しい」と述べ、ビーバーの巣がもたらした思わぬ保護効果を紹介している。
この事例は、米国営ラジオの『NPR』も取り上げている。周囲の斜面では植物が完全に消失しながらも、ビーバーが育んだ川底の湿地では青々とした草木が広がっている。
自然界の消防士 生態系の回復にも効果
米環境誌の『シエラ』は、「ビーバーたちは無給で働く消防士」だと述べる。ユタ州立大学のジョー・ウィートン准教授(環境地形学)は同誌記事のなかで、ビーバーのダムはスポンジのような貯水効果をもつと述べ、次のように解説している。
「谷底のスポンジに水を含ませれば、そこは野火のさなかに家畜や野生生物たちの避難場所の役割を果たすことがあり、そうでなくとも少なくとも延焼を遅らせることができます。谷底の地形がある程度平坦であり、そこにビーバーが棲んでいるならば、(スポンジは)こうした山火事の進行を食い止めることさえ可能な大きさとなるでしょう」