中国、南シナ海で横暴続々と フィリピンのEEZ内座礁船の撤去を要求
さらにマニラ首都圏マカティにある中国領事部が入った建物の前では11月24日に活動家や漁民による抗議活動が繰り広げられ、フィリピン国民の間で対中感情が悪化していることが明らかになった。
海軍の座礁船は領有権主張の拠点
16日の中国公船による「放水事件」について中国外交部の趙報道官は「フィリピンの船舶2隻が中国の同意を得ずに南沙諸島に侵入した」とアユンギン礁があくまで自国の海洋権益が及ぶ範囲との姿勢を強調していた。フィリピンにしてみれば自国のEEZ内のアユンギン礁に接近するのに「中国側の同意」など不必要という立場であり、両国の主張は全く相容れない状況がこれまで続いている。
そうした状況のなか24日に中国は「座礁船の撤去」を求めるというさらなる要求を持ち出して事態をエスカレートさせているのだ。
中国の動きに比大統領選も関連か
中国は1999年のフィリピンによる座礁船での常駐開始後も何度か補給船への執拗な追尾や妨害行為を行っているほか、2021年3月以降は南沙諸島のパグアサ島周辺やユニオンバンクと呼ばれる冠状サンゴ礁周辺海域に中国漁船200隻以上が長期間に渡って停泊を続けるなどの「示威行動」も確認されている。
こうした中国の動きの活発化には2022年5月に予定されているフィリピンの大統領選という政治的背景も関係しているのではないかとの観測がでている。
現在のドゥテルテ大統領の政治姿勢は表向きには対中強硬派とされているが、中国からの多額の経済援助やインフラ支援などを政権維持に利用するなど、実態としては「親中派」とみられている。
そのドゥテルテ大統領はフィリピン憲法の規定で次期大統領選には出馬できないことから、マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス・ジュニア氏やドゥテルテ大統領の腹心クリストファー・ボン・ゴー上院議員などが大統領候補として出馬している。
これに対して政権交代を目指す野党は統一候補としてレニー・ロブレド副大統領が出馬しており、ドゥテルテ政権の「継続か転換か」が2022年2月から始まる正式な選挙運動期間中の争点の一つになるのは間違いないといわれている。
こうしたフィリピン大統領選で内政に国民の関心や注目が集まる中、外交的に「攻勢」をかける狙いが中国側にあるとの見方が有力視されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など