最新記事

領有権

中国、南シナ海で横暴続々と フィリピンのEEZ内座礁船の撤去を要求 

2021年11月27日(土)21時42分
大塚智彦

newsweek_20211127_220212.JPG

座礁船シエラマドレの船上で兵士によって行われる国旗掲揚

さらにマニラ首都圏マカティにある中国領事部が入った建物の前では11月24日に活動家や漁民による抗議活動が繰り広げられ、フィリピン国民の間で対中感情が悪化していることが明らかになった。

海軍の座礁船は領有権主張の拠点

16日の中国公船による「放水事件」について中国外交部の趙報道官は「フィリピンの船舶2隻が中国の同意を得ずに南沙諸島に侵入した」とアユンギン礁があくまで自国の海洋権益が及ぶ範囲との姿勢を強調していた。フィリピンにしてみれば自国のEEZ内のアユンギン礁に接近するのに「中国側の同意」など不必要という立場であり、両国の主張は全く相容れない状況がこれまで続いている。

そうした状況のなか24日に中国は「座礁船の撤去」を求めるというさらなる要求を持ち出して事態をエスカレートさせているのだ。

中国の動きに比大統領選も関連か

中国は1999年のフィリピンによる座礁船での常駐開始後も何度か補給船への執拗な追尾や妨害行為を行っているほか、2021年3月以降は南沙諸島のパグアサ島周辺やユニオンバンクと呼ばれる冠状サンゴ礁周辺海域に中国漁船200隻以上が長期間に渡って停泊を続けるなどの「示威行動」も確認されている。

こうした中国の動きの活発化には2022年5月に予定されているフィリピンの大統領選という政治的背景も関係しているのではないかとの観測がでている。

現在のドゥテルテ大統領の政治姿勢は表向きには対中強硬派とされているが、中国からの多額の経済援助やインフラ支援などを政権維持に利用するなど、実態としては「親中派」とみられている。

そのドゥテルテ大統領はフィリピン憲法の規定で次期大統領選には出馬できないことから、マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス・ジュニア氏やドゥテルテ大統領の腹心クリストファー・ボン・ゴー上院議員などが大統領候補として出馬している。

これに対して政権交代を目指す野党は統一候補としてレニー・ロブレド副大統領が出馬しており、ドゥテルテ政権の「継続か転換か」が2022年2月から始まる正式な選挙運動期間中の争点の一つになるのは間違いないといわれている。

こうしたフィリピン大統領選で内政に国民の関心や注目が集まる中、外交的に「攻勢」をかける狙いが中国側にあるとの見方が有力視されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中