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遺伝子182世代、ある珍しい遺伝子変異が大陸を超えた変遷が明らかに
何世紀もわたり大陸をまたいだ遺伝子変異の変遷があきらかに peterschreiber.media-iStock
<米ユタ大学の研究チームは、何世紀にもわたり大陸をまたいだ心房細動の原因遺伝子の伝播について調べた>
心房細動(AF)とは、異常な電気信号により心房が痙攣したように細かく震え、規則正しく収縮できずに血液をうまく全身へ送り出しづらくなる不整脈の一種だ。動悸、息切れ、倦怠感などの症状のほか、心房内で血栓が形成されやすくなり、脳梗塞などのより深刻な病気を引き起こすこともある。
心房細動には何らかの遺伝性が関与していると考えられてきた。中国・同済大学の研究チームは、遺伝性心房細動患者の家族を研究し、「心拍リズムの維持に不可欠なイオンチャンネル遺伝子『KCNQ1』で原因となる突然変異が認められた」との研究論文を2003年に発表している。
約5000年前に北欧で変異が起き、デンマークから米国東部、米国西部へと
米ユタ大学の研究チームは、遺伝子検査サービス「アンセストリーDNA」との提携のもと、何世紀もわたり大陸をまたいだ心房細動の原因遺伝子の伝播について調べ、2021年11月8日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で一連の研究成果を発表した。
これによると、約5000年前、現在の北欧で生まれた人に若年発症型心房細動を引き起こす遺伝子の自然突然変異が起こり、この遺伝子変異は親から子へと代々受け継がれていった。18世紀にデンマークで居住していたその子孫は19世紀前半にデンマークから米国東部へ渡った後、モルモン開拓者の移動に伴って次第に西へと移動し、19世紀後半に山岳部のユタ州に達した。
診療記録を系図と重ね合わせてみると、8世代2926人を追跡可能なユタ州のある家系で心房細動がよくみられた。
若年発症型心房細動に罹患した13~57歳の29人のうち、甲状腺機能亢進症や糖尿病、弁膜症など、心房細動の臨床危険因子を持つ者はいない。発作性心房細動がみられる13歳女性は、母親が心停止を起こしたことがあり、当時20代前半であった母方のおばが睡眠中に死亡した。
変異は182世代にわたって受け継がれてきた
若年発症型心房細動には遺伝性でないものもあるが、見かけ上無関係の5家族で若年発症型心房細動を引き起こす「KCNQ1」の変異がみられた。現代の子孫のDNAの解析により、この変異は182世代にわたって受け継がれてきたと推測されている。
一連の研究成果は、祖先の起源や時代と大陸を超えた人々の移動など、心房細動を歴史的な文脈で解明しているのみならず、心房細動の発症リスクが高い人を特定しうる新たなアプローチを示すものとしても評価されている。