最新記事

遺伝子

182世代、ある珍しい遺伝子変異が大陸を超えた変遷が明らかに

2021年11月12日(金)18時33分
松岡由希子

何世紀もわたり大陸をまたいだ遺伝子変異の変遷があきらかに peterschreiber.media-iStock

<米ユタ大学の研究チームは、何世紀にもわたり大陸をまたいだ心房細動の原因遺伝子の伝播について調べた>

心房細動(AF)とは、異常な電気信号により心房が痙攣したように細かく震え、規則正しく収縮できずに血液をうまく全身へ送り出しづらくなる不整脈の一種だ。動悸、息切れ、倦怠感などの症状のほか、心房内で血栓が形成されやすくなり、脳梗塞などのより深刻な病気を引き起こすこともある。

心房細動には何らかの遺伝性が関与していると考えられてきた。中国・同済大学の研究チームは、遺伝性心房細動患者の家族を研究し、「心拍リズムの維持に不可欠なイオンチャンネル遺伝子『KCNQ1』で原因となる突然変異が認められた」との研究論文を2003年に発表している。

約5000年前に北欧で変異が起き、デンマークから米国東部、米国西部へと

米ユタ大学の研究チームは、遺伝子検査サービス「アンセストリーDNA」との提携のもと、何世紀もわたり大陸をまたいだ心房細動の原因遺伝子の伝播について調べ、2021年11月8日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で一連の研究成果を発表した。

これによると、約5000年前、現在の北欧で生まれた人に若年発症型心房細動を引き起こす遺伝子の自然突然変異が起こり、この遺伝子変異は親から子へと代々受け継がれていった。18世紀にデンマークで居住していたその子孫は19世紀前半にデンマークから米国東部へ渡った後、モルモン開拓者の移動に伴って次第に西へと移動し、19世紀後半に山岳部のユタ州に達した。

41467_2021_26741.jpg

nature.com

診療記録を系図と重ね合わせてみると、8世代2926人を追跡可能なユタ州のある家系で心房細動がよくみられた。

若年発症型心房細動に罹患した13~57歳の29人のうち、甲状腺機能亢進症や糖尿病、弁膜症など、心房細動の臨床危険因子を持つ者はいない。発作性心房細動がみられる13歳女性は、母親が心停止を起こしたことがあり、当時20代前半であった母方のおばが睡眠中に死亡した。

変異は182世代にわたって受け継がれてきた

若年発症型心房細動には遺伝性でないものもあるが、見かけ上無関係の5家族で若年発症型心房細動を引き起こす「KCNQ1」の変異がみられた。現代の子孫のDNAの解析により、この変異は182世代にわたって受け継がれてきたと推測されている。

一連の研究成果は、祖先の起源や時代と大陸を超えた人々の移動など、心房細動を歴史的な文脈で解明しているのみならず、心房細動の発症リスクが高い人を特定しうる新たなアプローチを示すものとしても評価されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米当局、銀行資本要件で「トークン化証券」に追加手当

ワールド

約150人死亡のイラン女学校攻撃、「米国の関与」濃

ワールド

欧州警察機関、中東紛争がEUの治安に「直ちに影響」

ワールド

米とベネズエラ、外交関係回復で合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中