最新記事

絶滅危惧種

種を守るため1500キロ旅した偉大なハイイロオオカミ、非業の死

Gray Wolf That Trekked 935 Miles From Oregon to California Found Dead Near Roadway

2021年11月29日(月)16時49分
ローラ・コルパー
ハイイロオオカミのOR03

OR93(写真)は、ハイイロオオカミが絶滅したカリフォルニア州に100年ぶりにやってきた希望だった CBS Sacramento-YouTube

<オレゴン州からカリフォルニア州まで、専門家も驚く長い距離を歩いた絶滅危惧種のハイイロオオカミ「OR93」は、志半ばで事故死した>

オレゴン州で生まれ、約100年ぶりにカリフォルニア州まで到達したハイイロオオカミのオスが、車にはねられて死亡した。州当局が11月24日に発表した。

カリフォルニア州魚類野生生物局によると、ハイイロオオカミは、1920年代に同州では絶滅したとみられている。

AP通信によれば、「OR93」という名で知られるこのハイイロオオカミは、2019年にオレゴン州北部のホワイトリバーパックで生まれた。今年1月下旬にカリフォルニア州に短期間足を踏み入れ、その後オレゴン州に戻ったが、2月4日に再びカリフォルニア州に移動し、南に向かい始めた。

OR93には電波発信器付きの首輪がつけられており、最後に送られてきたデータは、4月5日にサンルイスオビスポ郡の近くにいたことを示していた。魚類野生生物局によれば、OR93はその時点までに約1500キロも移動したことになる。

「死亡する前、このオオカミはカリフォルニア州で、記録にあるかぎり最も南に到達した。カリフォルニア州はもともとオオカミの生息地だったが、南部での発見の記録は1922年にサンバーナーディーノ郡で捕獲されたオオカミが最後だ」と、同局は述べた。


想像もしなかった長距離

地元メディアの報道によると、ハイイロオオカミのオスは成長して群れから独り立ちすると、メスを探して長い距離を旅する。遠くまで旅するのは、近親交配で群れを絶滅に招く危険を回避するためだ。全米の自然が道路で寸断され、狭い土地に動物が押し込まれるようになった今、近親交配は大きな問題になっている。

だがOR93は、動物保護関係者が想像もしなかった距離を旅して、ロサンゼルスのすぐ近くまできていた。その勇気と大胆さは、関係者の大きな希望になっていた。

ロサンゼルスのダウンタウンから約120キロ離れたレベックの町の近くで、トラックの運転手がオオカミの死体を発見したのは、11月10日のことだった。

生物多様性保護の活動に取り組む非営利団体「生物多様性センター」によると、かつては約200万頭のハイイロオオカミが北米を自由に歩き回っていたが、政府の駆除プログラムによって劇的に数が減った。1960年代からは絶滅危惧種として保護の対象になっている。

生物多様性センターのオオカミ保護活動家アマロク・ワイスは声明を出し、このオオカミの死はとても辛いことだと述べた。

「一年を省みるこの時期に、私はこのオオカミに感謝する。私たちに希望を与え、オオカミが再び野生の状態で自由に歩き回るようになる世界がどのようなものかを垣間見せてくれた」と、ワイスは語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中