最新記事

習近平

中国「月収1000元が6億人」の誤解釈──NHKも勘違いか

2021年11月9日(火)16時58分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、十分には中国の事情を知らない(中国から見た)海外の「専門家」やメディアが、李克強の発言を曲解しているのを知り、新華網国家統計局が説明を加えている。

それくらい誤解を招く表現を李克強がしたのは確かだろう。

NHKが誤解するのも無理からぬことだ。

しかし、日本に限らず他国でも誤解をしていた人がいたため、その後の中国政府側の「誤解を解くための努力」はかなり成されていたし、筆者も何度か本やコラムで書いてきたので、多少は誤解が解けたものと思っていた。だというのに、今年の11月8日の時点になってもなお、まだこの誤解に基づいた分析をNHKが公開しているのを知ったので、これはそろそろ名指しで指摘しないとまずかろうと思い、書いている次第である。民放は一般に「あのNHKが言っているのだから正しいだろう」という理解で、間違った事実や視点を拡散していく傾向にあるからだ。

中国の就労人口構成

そのため、もう少し中国の労働人口に関して説明を加えたい。

中国では女性は55歳が定年で、男性は60歳だ。女性の場合は主として幹部は55歳だが、女性工人と言って、一般の工場労働者などでは50歳定年の場合さえある。

最近では、医療の充実や生活レベルの向上により寿命が延びており、この定年年齢を引き上げるべきだという議論が巻き起こり、いま改善を試みている。実際、再雇用が図られている職場もある。

ただ、建国以来の慣習が身に付き、まだ元気いっぱいの定年男女が元気を持て余して、公園などでダンスを踊ったり気功を訓練したりしている姿はお馴染みの風景である。これら男女は年金生活なので、一人当たりの「平均月収」の値を引き下げている。

こういった社会背景を考えると、14億人もいる中国の全人口の内、就業しているのはわずか約7.7億人で(2020年6月発表の2019年の人力資源と社会保障部発表のデータ)、残りの約6.3億人が無就業者だというのは注目に値する。

繰り返すが、ゼロ歳から就職年齢に達するまでの「子供」や博士課程を含めた大学生、軍人、定年退職者・・・などは無就業者の中に含まれている。

特に農民の多くは農地を持っているので、自給自足も可能だし、さらには実は農家は家族構成として一世帯当たりの人口が多い。赤ちゃんから祖父母などなど加えて数名はいる家庭はざらだ。この家庭の人口分で一家の収入を割り算するので、いっそう「一人当たりの月平均収入」は少なくなっていくのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で

ビジネス

米相互関税は世界に悪影響、交渉で一部解決も=ECB

ワールド

ミャンマー地震、死者2886人 内戦が救助の妨げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中