最新記事

日本社会

「眞子さまは海外脱出を選ぶしかなかった」 反論できない人を誹謗中傷する人たちが誤解していること

2021年10月26日(火)07時30分
伊藤和子(弁護士・国際人権NGOヒューマンライツナウ理事・事務局長) *PRESIDENT Onlineからの転載

各メディアは、帰国時の小室さんの髪型を批判したり、一挙手一投足を取り上げ、臆測も交えて否定的な報道に興じているようである。

「水に落ちた犬をたたく」という言葉がある。一度世論が一つの方向に加熱した問題において、標的にされたたかれている人々をさらにたたき続ける現象だ。

それが今、この二人に集中してしまっているが、この現象は率直に言って、集団的ないじめにほかならない。

世論に迎合して、否定的な報道をすればするほど視聴率は上がり、閲覧数を稼ぐことができるのだろう。一部メディアは結婚を控えた若い二人の人格をおとしめ、明るい未来を否定する報道をし、またはそれに加担することで、巨額の利益を得ているわけである。良心の呵責はないのだろうか。

内親王である眞子さまは立場上、いかに不当で事実に反する報道をされても、民間の報道機関を相手に名誉毀損訴訟などを起こすことが非常に難しい。反論できない相手と分かっていながら誹謗中傷をあおるような報道を垂れ流して利益を得ようとするメディアの姿勢が厳しく問われなければならないと思う。

なぜ期待に応えなければ人格を否定されるのか

眞子さまが一般人でなく皇室に属することから、社会の期待に沿う結婚をしなければならないとして、期待に沿う行動を強要する発想は危険である。

なぜなら、そうした発想はとどまるところを知らないからだ。

皇室の誰としてこのような世論に安穏としていられないだろう。国民の期待などという漠としたものに応える結婚を求められ、それに反するならどこまでも誹謗中傷されるとするならば、誰一人として安心して結婚できないだろう。人格を否定される生き方を強いられる皇室にとどまり続けたい若いまともな皇族などいるだろうか。そして誰があえて火中の栗を拾って注目度の高い皇族と結婚したいと思うだろうか。

社会に完璧な人間など存在しない。人はだれも人間であるが故の未熟さや欠点を抱える。若者であればなおさらである。過去も含めた自分や、親族全員が何らトラブルも過ちもない完璧な人間など存在しない。そのような人間を配偶者として求めることは不可能である。

社会は皇室にバーチャルリアリティーを求め、それに応えられないならいくらでもたたきますよということだが、早く目を覚まして、その異常性に気付くべきである。

「税金で生活している人に生き方の自由はない」という発想は危険

同様のプレッシャーは、国民から何かの拍子で関心を持たれたり、社会的関心事の的となったすべての人に及ぶことになる。例えばオリンピック選手や芸能人、犯罪被害者として報道された人にまでそうしたプレッシャーは及ぶ。

皇室をたたくことが正義なら、世論という名の凶器が多くの人にも波及することになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中