日本語を職業にする外国人だからこそ分かる「日本語の奥深さ」と「文章の極意」
パックン それぞれの母国語の特徴もふまえて、日本語をしゃべる段階、書く段階で引っ掛かったところはどこですか?
マライ 助詞。
パックン やっぱり。
マライ 今も、引っ掛かりまくってますけどね(笑)。だって、「は」と「が」の違いの研究書があるぐらいですよね。大学で学んだりもしたんですけど、一般的なルールを遥かに超えてディープな世界だと思う。どういう時は「は」で「が」なのかっていうのが、分からない。
パックン あれは全部、意地悪なんです。あと編集者は、仕事をしたくて助詞を変えてるだけ。ホントは放っておいていいはずなんです。あと、僕にとっては受動態と丁寧語が重なるところがけっこうネック。いつもどっちかな、と思うんですよ。「食べられますか」と聞かれると「オレを食わないでくださいよ!」みたいな。日本人は聞き分けることができるんだけど、僕はいまだに引っかかる。あとは、同音異義語。「汚職事件」と「お食事券」、どっちなんだだって。
マライ 「病院」と「美容院」みたいな?
日本語は省略しないと気持ち悪い
パックン そうそう。ハンナさんはどうですか。引っ掛かったところ。
ハンナ やっぱり文法的に、韓国語と日本語が近くて「が」とか「は」とか、私たちも一緒なんですよ。でも例外があって、一番初めに韓国人がよくミスするところですけど、「これが好きです」の「が」が、韓国語だと「を」になるんですね。「あ、そうなんだ」と言いつつ、私は「あなたを好きです」ってよく言ってた。
パックン いや、「あなた『を』好きです」って言われた人が、「いやいや、『が』だよ」とか言ってきたら、好きでなくなるね。
一同 (笑)
パックン もう好いていただければ嬉しいですよ。どんな文法でも。
シャハラン たしかに。そこに文法はいらない。
パックン そんな男とは別れなさい(笑)じゃあ今度は文章の日本語。みなさん、きれいな文章書けるようになるには、相当苦労したんじゃないかと思うんですけど、母国語で文章を書くのと、日本語で書くのと、何が違うのか教えてください。じゃあ、マライさんから。
マライ やっぱり、文法的なところ。ドイツ語も英語もそうだと思いますけど、省略できない部分がある。例えば、ちゃんと主語を入れて書く。通訳の仕事でも、日本人側が主語をけっこう端折って言ったりしていて、こっちで補わないといけない。複数形か単数形か、とかも。そういうのが全部そろってないと文章が成り立たないのがドイツ語で、ある意味すごく面倒くさい言語なんです。
パックン でも日本語で書くときは、それを省略しないと、すごく気持ち悪い文章になるんですよね。
マライ そうなんですよ。だから例えば、ドイツ文学を日本語に訳すときに、相当変えないと読みづらい。「なんでそんなはっきり全部書くんだ?研究書かよ」みたいになる。私は、文が長ったらしいってよく言われます。やっぱり日本語で書くときは、もっと省略した方がいいかもって、もう一回読み直したりします。
パックン ああ、そうなんだ。
パートナーに見てもらうという方法
マライ 「ここ全然短くできるよね」って言われる。「ドイツ人としては、ここがすごく言いたいんだけど......」と思っても、「いや、いらないから」みたいなことはよくありますね。
パックン 誰に編集されるんですか?
マライ もちろん、そのときどきの編集担当の方ですけど、うちの(日本人の)夫は、すごく文章が上手い人で、彼にも絶対見せますね。「長いわ」ってなります。
パックン 僕も、今はそこまでじゃないですけど、以前はけっこう妻に見てもらっていて。「長いわ」は、まあ我慢できるんですけど、「面白くない」って言われると、一番傷つくんです。
一同 (笑)
パックン 「親しき仲にも礼儀あり」って知らないのか!って、いつも奥さんに思うんですけどね。シャハランさんはどうですか? 苦労した点。
シャハラン 翻訳の仕事をやるときもあるので、マライさんと同じ問題があるんです。ペルシア語は日本語で1行で書くところが2、3行になる。
マライ ペルシャ語はなんか長いらしいですね。
シャハラン 漢字の特色なのかもしれない。漢字の言葉はペルシア語にそのまま訳せず、意味を明確にしないといけないときがあります。あとは、明文化された(書き言葉の)ルールがペルシア語にはあるので、そういうのも苦労しますね。