最新記事

韓国

韓国の若者たちは、民族の悲願だったはずの「南北統一」に興味なし

A Weakening Consensus

2021年10月20日(水)18時40分
ディラン・ステント(ビクトリア大学ウェリントン校博士課程)
南北首脳会談ポスター

2018年5月にソウルで行われた南北首脳会談のポスター JORGE SILVAーREUTERS

<若い世代は「民族の悲願」にさほど執着がない。そんな風潮は次期政権の北朝鮮政策にどう影響するのか>

朝鮮半島の南北分断と対立を終結させる唯一の正しい道は平和的な統一だ──保革を問わず、韓国の指導者はそう主張し続けてきた。

1989年に「韓民族共同体統一案」をぶち上げた当時の盧泰愚(ノ・テウ)大統領から、対話と経済交流を追求する文在寅(ムン・ジェイン)現大統領まで、南北統一は韓国の北朝鮮政策の核心だった。

だがここ数年は朝鮮半島の統一を目指す国民的合意が揺らいでいる。今の国民感情と、それが来年の韓国大統領選、さらには今後の南北関係に及ぼす影響を考えてみたい。

近年、状況や価値観の変化に伴い、統一に対する人々の思いが変わってきたことを示す調査結果が目に付くようになった。その背景には世代交代と政治的イデオロギーの変容がある。

伝統的に韓国のエリートは北朝鮮の攻撃的な姿勢に対し愛憎半ばする感情を抱いてきた。革新派は特にそうだ。彼らは北朝鮮に相手にされなくとも友好関係を築こうとした。保守派も北朝鮮に懲罰的な態度を取ろうとはしなかった。

2010年に韓国の哨戒艦・天安が北朝鮮に撃沈されたときでさえ、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領は南北経済協力のシンボルである開城(ケソン)工業団地を閉鎖しなかった。李の後を継いだ朴槿恵(パク・クネ)も大統領就任早々、北朝鮮のミサイルの脅威に直面したにもかかわらず、対話と交流路線を変えなかった。

とはいえ調査結果を見ると、10年代初め頃から韓国の人々の北に対する見方が変わってきたようだ。特に若年層では顕著な変化が見られることを複数の研究が示唆している。

「単一民族意識」が薄れる若者たち

若い世代の間では民族的なナショナリズムではなく市民的ナショナリズムに基づく新たな国民意識が根付きつつある。それに伴い、「民族の共同体」の建設はさほど大きな夢ではなくなっているのだろう。若い韓国人は南北統一が自分たちにとって、また自分たちの国にとって有益だとは必ずしも考えていない。

「南北統一は民族の悲願だ」といったスローガンを掲げる勢力は今の韓国では少数派になっている。今でもこうしたスローガンにしがみつき、首都ソウルの都心でデモを繰り返しているのは極右だけだ。

「ウリ共和党」や「親朴新党」など一部の極右政党は、綱領に「統一こそ民族の夢」といった文言を盛り込んでいる。ウリ共和党は北朝鮮の3代続く世襲の独裁体制を倒し、統一国家を建設することを究極の目的に位置付けている。

だが保守主流派はこうした主張を前面に掲げていない。その理由の1つは韓国の保守政党がもはや老人支配ではなくなっていることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、8─10月は既存店売上高・利益が市場予

ビジネス

ビットコインの弱気派優勢に、年末の9万ドル割れ確率

ワールド

米下院委員長、中国への半導体違法輸出受け法案の緊急

ワールド

ボスニアと米国、ロシア産ガスに代わるパイプライン建
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中