最新記事

エネルギー政策

脱炭素シフトで世界の優等生ドイツが「国中大停電の危機」に陥っている根本原因

2021年10月18日(月)18時05分
川口マーン惠美(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

エネルギーの値上がりが、徐々にあらゆる職種に影響をおよぼすことは理の当然で、すでに4月、ガソリンは前年の同月に比べて24.8%、ディーゼルは19.5%も値上がりしていた。もちろん暖房用の燃料油も上がっている。9月には、食料品も上がり始めた。

「炭素増税」を掲げる政党が人気の不思議

一方、ドイツにおけるエネルギー高騰は、今年1月より課せられているCO21トン当たり25ユーロという炭素税のせいも大きい。炭素税は来年には30ユーロ、再来年は40ユーロと毎年上がり、2025年には55ユーロとなる予定だ。ドイツ連邦銀行のヴァイトマン総裁曰く「年末にはインフレ率は5%に迫るだろう」。インフレは、好景気でお金が回っているなら国家経済にとって良い兆候だが、ドイツの炭素税は目下のところ、景気の向上を伴わない増税に等しい。今年のインフレ率が5%で済めばいいほうではないか。

そんな中、緑の党は徹頭徹尾、1日も早くガソリン車やディーゼル車を地上から消し去るため、炭素税はもっと高くすべきだと主張してきた。しかもドイツは、その過激な党の人気が、なぜかエネルギー価格同様、一途上昇中という不思議の国である。次期政権では、緑の党の与党入りが確実視されている。

価格高騰は「プーチン大統領が恐喝したから!?」

緑の党にとって、炭素税は善だが、インフレは悪。そこで、彼らが電気代高騰の犯人として引っ張り出したのがプーチン露大統領。ダブル党首の一人のアナレーナ・ベアボック氏によれば、ガス価格の高騰はプーチン大統領の恐喝である。このままでは、冬に国民が凍えることになりかねないため、ロシアが契約通りガスを輸出するようドイツ政府が介入すべきだとまで主張した(RND9月23日付)。

ロシアがガスを出し渋っている理由は、それによってロシアとドイツの間の海底ガスパイプライン(ノードストリーム2)の運開認可を早めるためだというわけだ。長らく米国の妨害で遅れていたパイプラインは9月にようやく完成し、これが稼働すればロシアは潤沢な利益が見込め、ドイツはガス不足から解放される。

しかし、現在のガス不足は本当にロシアの陰謀なのか? 在独ロシア大使によれば、ロシアはヨーロッパとの契約はすべて履行しているばかりか、現在の輸出量は去年の水準より40%増しで、契約量を上回っているという。それについてはドイツ政府も認めている。

迫りくるドイツの「ブラックアウト」の危機

それどころか、ドイツとロシア及び東欧諸国との交易振興会(Ost-Ausschuss der Deutschen Wirtschaft)のオリバー・ヘルメス代表は、現在のロシアのガスの価格は長期契約で定められているため、市場スポット価格よりもずっと安値だという。その上、寒冷国ロシアは、秋口には自分たちのガスも慎重に確保する必要があるとする。

もちろんガスの高値が続けば、ノードストリーム2の運開が早まることはあり得るし、ロシアがそれを望んでいることは間違いないが、そのためにロシアがガスを出し渋っているのか、あるいは、本当に出せないのかは判然としない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中