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オスが妊娠して赤ちゃんを出産...タツノオトシゴの不思議な生態

2021年9月27日(月)16時04分
青葉やまと

地球上で唯一、オスが妊娠する動物 vojce-iStock

<タツノオトシゴはユーモラスな姿が愛らしいだけでなく、オスが妊娠・出産する不思議な生態を持っている>

タツノオトシゴはその名のとおり小さな竜のような出立ちをしており、愛らしい姿がダイバーたちにも人気だ。一般的な魚と同じように小さなヒレを持っており、それを使って直立姿勢を保ちながら器用に泳ぐ。日本では北海道南部から沖縄までの広い海域で見ることができるが、温かい海域を好む種が多いことから、伊豆半島より南の海でダイビングをすると比較的見つけやすい。

とはいえ、ユニークな姿をひと目見たいなら、海のなかをかなり集中して探し回ることになるだろう。タツノオトシゴは、かくれんぼの名人でもあるのだ。丸まった尻尾をうまく使い、海藻や岩、そして人工のブイなどに絡まって体を固定し、身を隠すのが得意だ。

それだけでなく、周囲の色にあわせてカメレオンのように体の色を変化させることができるため、発見の難易度はさらにアップしている。体の表面に色素胞と呼ばれる細胞を持ち、この細胞内の物質が移動することで体の色が変化するのだ。藻に隠れる習性とあわせて、外敵に見つかりにくいよう生き抜くための工夫が凝らされている。

日本では竜、英語では馬?

日本では漢字で書くと「竜の落とし子」だが、英語ではシーホース(海の馬)と呼ばれる。体に対して直角に曲がった顔の部分が馬のように見えることと、背中側がたてがみのように見えることから名付けられた。

ちなみに、人間の脳にも短期記憶と空間学習を担う海馬という部位があるが、この名前は断面がタツノオトシゴに似ていることから付けられている。タツノオトシゴは海に棲む馬のようにも小さな竜のようにも見える、なんとも不思議な生命体だ。

世界で47種ほどが確認されているタツノオトシゴのうち、うち日本にいるのは7種ほどだ。体長2センチにも満たない小さな個体も多いが、最も大きくなるオオウミウマという種では、成長すると体長25センチにまで達する。

特徴的なのは何といっても、驚いたようなユーモラスな顔つきと、角ばった体つきだろう。面長の顔の先端は管状に突き出た「吻(ふん)」になっており、ここが人間でいう口にあたる。プランクトンが近づくとこの吻を予想外にすばやく動かし、器用に一瞬でエサを吸い込む。

全身はまるでエビのような殻に覆われているかのようにも見えるが、これは実際には殻ではなく、皮膚の下を支えている骨格が浮き出たものだ。分類上も甲殻類というわけではなく、魚類の一種という扱いになっている。

地球上で唯一、オスが妊娠するいきもの

ユニークなのはこのような外観だけではなく、繁殖方法もかなり独特だ。タツノオトシゴのなかまは地球上で唯一、オスが妊娠する動物だ。

シドニー大学のカミーラ・ウィッティントン博士研究員(2015年当時。現在は同大上級講師)は、豪カンバセーション誌に寄稿した『タツノオトシゴのお父さんの秘密の性生活と妊娠』という記事のなかで、そのユニークな生態を紹介している。記事は「性別のステレオタイプを打ち壊すという点において、タツノオトシゴとそのなかまの種はかなり極端な例だといえるでしょう」と述べる。

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