最新記事

BOOKS

再婚で生じるステップファミリーで「子どもの虐待」を防ぐ方法

2021年9月22日(水)18時55分
印南敦史(作家、書評家)
『ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚』

Newsweek Japan

<血のつながりがない親に、連れ子を虐待する傾向があるとは限らない。では、なぜ痛ましい虐待事件が起こるのか。継親子の良好な関係性はどのように実現するのか>

『ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚』(野沢慎司、菊地真理・著、角川新書)は、2018年3月に東京都目黒区で起きた、あの痛ましい事件の話題から幕を開ける。

当時5歳だった女児の船戸結愛ちゃんが、虐待の末に命を落とした事件だ。結愛ちゃんが綴った反省文中の「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」という言葉は、3年以上の歳月を経た今も多くの人の心の中に残っているはずだ。

報道を目にするたび私も憤りを感じたものだが、著者によれば、この事件は単純に"憤り"だけでは片づけられない問題をはらんでいる。それは、この事件が「ステップファミリー」で起きたという事実である。


ステップファミリーとは、親の再婚などによって継親子関係が生じた家族です。テレビや新聞では、虐待したのは結愛ちゃんの「父親」と報道されることが多かったのですが、正確に言えば「継父」でした。血縁の親子ではない継父と継子のあいだで起こった虐待事件でした。(「はじめに」より)

今の日本で子どもが育つ環境は大きく変化しており、その最たる例が離婚率の高さだ。著者によれば、50~65年ほど前の高度経済成長期に比べると、親の離婚を経験する子どもの数は格段に増えているという。

高度成長期に小学生時代を過ごした私も、このことは強く実感できる。当時、(少なくとも私の周囲には)親が離婚した子は少なく、一学年に数人いるかいないか、という程度だった。

大人のひとりから、「アメリカと違って日本は離婚する人が少ない」のだと聞き、子ども心に納得したことも記憶に残っている。

だが、そこから数十年を経て周囲を見渡せば、親の離婚を経験している子どもの数は驚くほどに増えていた。それは、小学生時代に見たこと、聞いたこととはずいぶん違った光景だった。

とはいえそれは、現代の日本においてステップファミリーが"どこか見えにくい場所にいる、珍しい家族"ではなくなっていることの証明でもある。

ステップファミリーについて考えるにあたってはまず、「ステップファミリーだから虐待が起きやすいのではない」という著者の主張を意識する必要がある。

確かに"ステップファミリーが陥りやすい落とし穴"をうまく回避し、良好な関係を維持しているケースも少なくはない。ステップファミリーであれば必ず落とし穴の方向に進むというわけではないのだ。

では、その落とし穴とはどういうものなのだろう? 著者は次のように解説している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、洋上風力発電権益の49%

ワールド

米FDAワクチン部門トップがケネディ長官批判し辞任

ワールド

韓国憲法裁判所、尹大統領の弾劾巡り4日に判断

ワールド

米通貨監督庁、気候リスク指針を撤回 銀行に「負担大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中