最新記事

自動車

「電動車」という政府の偽装が示す、日本の自動車産業の終着点

2021年9月21日(火)16時00分
竹内一正(作家、コンサルタント)
トヨタのハイブリッド車

日本政府が使う「電動車」にはハイブリッド車まで含まれている(写真は米ロサンゼルスで展示されたトヨタのハイブリッド車) Andrew Cullen-REUTERS

<『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者で世界のEV動向に詳しい竹内一正氏が、日米欧の政府が使う言葉の裏の意味を解き明かしながら、日本の自動車産業の将来を展望する>

今年8月、米バイデン大統領は「排ガスゼロ車」を2030年に新車販売の半分にすると発表した。一方、日本の菅首相は2035年までに新車販売で「電動車」100%を実現すると言い、欧州は「ゼロエミッション車」と言っている。

しかし、「排ガスゼロ車」と「電動車」と「ゼロエミッション車」の違いがわかっている人は世間にどれぐらいいるだろうか。

「米、30年に新車の半分を「排ガスゼロ車」に」は正しいのか?

『バイデン氏「2030年までに新車の50%をEVに」 大統領令署名』

これは今年8月5日の毎日新聞デジタルの見出しだ。そして、これを目にした誰もが、アメリカは新車販売の半分をEV(電気自動車)にすると思っただろう。

次に、朝日新聞デジタルを見てみよう。

『米、30年に新車の半分を「排ガスゼロ車」に 大統領令』

「排ガスゼロ車」というのはEVとFCV(燃料電池車)だと思った読者はそこそこ勉強している人たちだ。しかし、まだ不十分な点がある。

では、日本経済新聞のデジタル版はどうだろう。

『米国、30年に電動車5割 脱ガソリンを政策で誘導』

「電動車」とは何だ? EVのことだろうと思った人が多かったに違いない。

しかし、どの新聞の見出しも正確性を欠き、間違いだ。ホワイトハウスの発表内容とは異なり、読者をミスリードしていた。

バイデン政権はEVだけでなく、PHV(プラグインハイブリッド車)とFCV(燃料電池車)を含んで「ゼロエミッション車」と呼び、これを新車販売の半分にすると言っていたのだ。

ちなみに、ホワイトハウスが発表した英語原文では「クリーンカー」と「ゼロエミッション車」の2つが用いられていた。

さらに、欧州委員会は「ゼロエミッション車」という言葉を使っているが、アメリカとは定義が違う点に注意が必要だ。欧州の「ゼロエミッション車」はEVとPCVの2種だけが該当し、PHVは除外されていて、2035年までにゼロエミッション車を100%にする目標を掲げている。

日本の排ガスゼロ車の実態

「ゼロエミッション車」とは、排気ガスを全く出さないクルマだと誰もが思う。ならば、バイデン政権が「ゼロエミッション車」にPHVを含むのは間違っているのは小学生でもわかることだ。

だが、そこは政治だ。言葉で大衆の目をくらませる。

アメリカの実態を見ておこう。2020年の新車販売では、ガソリン車とディーゼル車の販売比率は約93%だ。残りの約7%がHV(ハイブリッド車)、PHV、EVだ。FCVは微々たる数でしかない。EVだけだと2%に届かない。そこでバイデン政権は「ゼロエミッション車」に仕方なくPHVを加えたのだった。

では日本の使う「電動車」はと言うと、EVとFCVにPHVを加え、HVまで入っている<表1>。これはトヨタの意向を強く反映したものだ。

auto210921-chart01.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中