「電動車」という政府の偽装が示す、日本の自動車産業の終着点
その電動車の内訳を見る前に、まずは2020年の日本での新車販売実績を見ると、約79%がガソリン車とディーゼル車で、次にHVが約20%を占める。欧州のHVは約10%、米国が約3%であるのと比較すると日本はHV比率が高い。
さらに、日本のPHVの新車販売に占める比率は約0.3%で、EVも約0.3%。FCVに至っては約0.02%に過ぎない。
これを「電動車」のくくりで内訳を見ると、HVが約96%も占めている。電動車イコールHVと言っていいほどだ。PHVは約1.6%、EVも約1.6%で、FCVは約0.08%に過ぎない<図1>。
トヨタ社長の発言と本音
日本自動車工業会の会長も務めるトヨタ自動車の豊田章男社長は以前より、日本で化石燃料主体の電力がクリーン化されなければ、ライフサイクルで考えると日本で製造したクルマはカーボンニュートラルで考えると不利になると主張していた。
だから、自動車メーカーだけに脱炭素の重荷を背負わせるのではなく、政府は電力会社に脱炭素をもっと進めさせてくれと言うのが本音だ。そして、これは正しい主張である。
一方、今年8月9日のオンライン記者会見で、トヨタ社長は「一部の政治家からは、すべて電気自動車(EV)にすればいいという声を聞くが、それは違う」と発言し注目を集めた。
ここに、トヨタ11代目社長の本音があった。
それは、HVを脱炭素車に含めて、HVの賞味期限を延命し商売を続けさせて欲しいということだ。その声が反映したのが「電動車」という日本独自の造語だった。
しかし、欧州は明確にHVを切りすてて、米国もHVを排除していく。
時代の流れを読むことは経営者にとって最も重要な役割だ。今後の10年をどの方向に向かって船を進めるのかで、日本の社会も大きく変わるだろう。
トヨタはビッグ3に似てきている
今のトヨタは、米国で1970年代に導入された排ガス規制「マスキー法」に背を向けて、従来どおりの排ガスをまき散らす燃費の悪い自動車を作り続けたGM、フォード、クライスラーのビッグ3に似て見えてしまう。
その当時、マスキー法に関して、「厳しすぎる」、「現実離れしている」といった批判は業界にもマスコミにも多くあった。
だが、日本のホンダはマスキー法をクリアするCVCCエンジンを世界に先駆け開発し、シビックを世に出し、新時代に挑んでいった。それに続けとばかりに日本の自動車メーカーは、排ガス規制をクリアする自動車を開発していったことで、自動車大国になっていった歴史がある。
だが、もしあのときマスキー法を無視して、排ガスをまき散らす従来のクルマを作るだけだったら、日本は自動車大国にはなりえなかった。
ハイブリッド車が日本に危機をもたらす
日本のメディアでは、「電気自動車」と「電動車」を同じに使っているケースさえ見受けられる。「「電動車」が増えた」と報道されれば、EVが増えたと勘違いする国民が出てくる。だが、「電動車が増えた」イコール「HVが増えた」に過ぎないのが日本の実態だ。
トヨタと日本政府はHVにしがみついていたら、世界から置き去りにされてしまう。
そして、HVだけでなく、PHVも所詮は期間限定の「ガソリン車」に過ぎない。賞味期限が切れてから慌ててEVを作り出しても世界は待っていてはくれない。
世界を制覇していたビッグ3のうち、GMとクライスラーは2009年に経営破綻した。それは、時代の流れに背を向けた結果だ。
<筆者・竹内一正>
作家、コンサルタント。徳島大学院修了。米ノースウェスタン大学客員研究員。パナソニック、アップルなどを経てメディアリング代表取締役。現在はコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)など多数。
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