動画サイトの視聴で広がる集団疾患、世界の若年層で報告相次ぐ
ある動画を視聴した若者たちのあいだで、意思に反して突発的に顔を歪めたり汚言を吐いたりする症状が急増した Михаил Руденкo-iStock
<ネット上の動画を再生した一部の若者たちが、昨年から身体の不規則な動きや意図しない奇声などに悩まされるようになった>
一部の動画を視聴した若者たちのあいだで、意思に反して突発的に顔を歪めたり汚言を吐いたりするなどの行動が見られるようになっている。昨年ごろから症例が急増し、世界各国で症例の報告が相次ぐ。トゥレット症と呼ばれる既存の症状によく似ているが、伝播のパターンと発現のメカニズムが異なることから、一部研究者たちは新たな症状だと位置付けている。
一例としてイギリスでは、ある日から14歳少女の身体が散発的に、意思とは関係なく動くようになった。英医学誌の『BMJ』に掲載された論文によると、少女は急に首を突き出したり、雄叫びをあげたりする挙動を示しているという。こうした突発的な動作ないし発声自体は「チック」と呼ばれる既知の症状だが、その症例数は昨年からイギリスで急増している。論文は「チックの爆発的増大」だと述べ、警鐘を鳴らす。
海を越えたニュージーランドでも発生している。現地ニュースメディアのスタッフ誌は、昨年7月に突然チックを発症した16歳少女のケースを報じている。少女は初日に頭部のけいれんを感じながら目覚め、翌日になると汚い言葉を叫び散らすようになったという。少女は周囲の理解を得られず、失礼な言動をする若者だとの思い違いに心を痛めている。ニュージーランドでは昨年以降、こうした患者の数が例年の倍以上の水準にまで増加している。
カナダでも問題視されつつある。WIRED誌イギリス版は、カナダ・アルバータ州の精神科クリニックにおいて、今年5月までの1年間に通常の1.5倍のペースでチックの受診が増加していると伝えている。突然手を叩いたり脈絡なく「ノックノック」などと口走ったりする子供が増え、症例数は昨年のクリスマスシーズンまでに「天文学的な規模」になったという。
動画経由で世界に拡散か
国境を超えて増加しているこれらの症例について、徐々に原因が解明されるようになってきた。症状を媒介していると疑われるのが、SNSや動画サイトなどに見られる特定の種類の動画だ。症例に詳しいドイツ・ハノーファー医大の医師ら研究チームが本件の分析を行い、オックスフォード大学出版局が刊行する学術誌『ブレイン』に結果が掲載されている。
論文によるとハノーファー医大では昨年ごろから、症状を示す若者が病院部門に押し寄せるようになっていたという。医師たちは当初大いに困惑したが、患者たちの多くが特定のYouTubeチャンネルを視聴していることを割り出した。
当該のチャンネルはドイツの人気YouTuberであるジャン・ツィンマーマン氏が運営しているもので、ドイツで第2位の人気を誇る一大チャンネルだ。登録者数222万人を誇り、総再生回数は3億回を上回る。