ニルヴァーナの「全裸赤ちゃん」が児童ポルノなら、キリストの裸もアウト?
Swimming Through Time
もちろん、今はそのような解釈はされない。コバーンが91年当時に考えていたことを、正確に知る方法はない(彼は94年に自殺している)。
だが筆者は、子供をモチーフとするアートを研究してきた者として、また『ネヴァーマインド』の発表後まもなく出産した母親として、あのジャケットに対する発売当時の反響が今とは大きく違っていたことは証言できる。
91年当時、あのジャケットは、理想主義が危険にさらされていることを完璧に表現しているように感じられた。
ドル紙幣に刺さった釣り針からは白い糸が伸び、写真には写っていない何者かによって引っ張られている。赤ん坊は写真のフレームいっぱいに両腕を伸ばして(まるで十字架にかけられたかのように)、紙幣を見つめている。構図的に紙幣は赤ん坊の目の前にあるが、水中なので決して手が届かないように見える。
私たちは思っていた。「赤ちゃん、魂を売っては駄目」と。まるで自分が、ジャケットの中の無防備な姿の赤ん坊のように感じられた。いつも水中に漂って、危険にさらされて、誘惑に向かって手を伸ばしている。その誘惑は、私たちをどこにも導いてくれないのだけれど。
このジャケットの素晴らしいところは、こうしたコンセプトと、デザインの完成度にあった。コバーンの着想と、ウェドルの写真、そしてアートデザインがわずかでも違っていたら、これほど一世を風靡しなかっただろう。
そこに赤ん坊のペニスが写り込んでいるかどうかは、さほど重要ではなかった。ただ、音楽ジャーナリストのマイケル・アゼラッドの著書によると、レコード会社は赤ん坊の性器が露出しているために、販売店が限定されるのではないかと心配した。
そこでコバーンは、ステッカーを貼ってペニスを隠すことを提案したという。「この写真を見て不快に思う人は、隠れ児童性愛者だ」というメッセージを入れて。だが、実際に発売されてみると、ジャケットデザインに対する批判はほとんどなく、ステッカーは不要となった。
30年で大きく変わった価値観
今、このジャケットは全く異なる受け止め方をされている。考えが変わったのはエルデンだけではない。幼年期の経験(性的虐待を含む)は、生涯にわたり影響を与えることが分かってきた。子供を守るために、大人は安全な環境をつくり、子供に覆いをかけるようになった。
その一方で、ソーシャルメディアで子供の姿をさらす親が増えている。親にとってはかわいい姿でも、本人は他人に見られたくない姿かもしれない。
『ネヴァーマインド』のジャケットが、エルデンの人生に大きな影響を与えたのは事実だろう。だが究極の皮肉は、あの赤ん坊が30年後、まさに金を求めて泳いでいることかもしれない(エルデンは15人の被告それぞれに15万ドル以上の支払いを求めている)。
私たちは、現在の価値観に基づき、過去を変えたいと切に願う。だが、過去にさかのぼって物事をやり直すことはできない。その代わり、未来を変えるしかないのだ。
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