最新記事

宇宙開発

ジェフ・ベゾス対イーロン・マスク 宇宙開発をめぐる大富豪の戦いは、ベゾスの負け?

2021年9月7日(火)18時10分
竹内一正(作家、コンサルタント)

ロケット発射台でも角突き合わす2人

ロケットの発射台でもベゾスはマスクに喧嘩を売っていた。

星出彰彦・宇宙飛行士たちが乗ったファルコン9で使用したケネディ宇宙センターのロケット発射台第39Aは、アポロ計画のために建設されたものだった。

しかし、スペースシャトルの引退後は使い道がなくなって老朽化が進み、NASAはこの発射台を売りに出す決断をした。

その時、名乗りを上げたのがマスクだった。

話は簡単にまとまると思ったとき、ベゾスが待ったをかけた。「スペースX1社に発射台を独占させれば、打上げの公正な競争が阻害される」と2013年に訴えを起こしたのだ。

この決着は、米会計検査院が「NASAの審査は公正に行われた」と結論付け、再びマスクの勝利となった。

ベゾスは嫉妬からマスクに喧嘩を売っているのか?

なぜ、ベゾスはマスクのやることにあれこれケチをつけたがるのか。

ブルーオリジンの創業は2000年とスペースXより2年早い。ところが、その後の歩みはスペースXに追いつかれどんどん離されていった。

地球軌道への打上げ、国際宇宙ステーションへの物資と宇宙飛行士の輸送の成功。スペースXの快挙をベゾスは指をくわえて見ているだけだった。

ブルーオリジンがダメなのか、スペースXが凄すぎるのか?

両社のロケットを比較すると実力の差が見えてくる。

ブルーオリジンのニューシェパードは全長18メートルなのに対して、スペースXのファルコン9は全長71メートルで約4倍の差がある。

さらにロケット推力はニューシェパードが490KN(キロニュートン)なのに対し、ファルコン9は7600KNで約15倍の違いだ。

2020年の打上げ実績を比較すると、ブルーオリジンはニューシェパードを1度打上げて成功。高度は約100キロ。

一方のスペースXは野口聡一・宇宙飛行士たちの国際宇宙ステーション(地上約400キロで地球を周回)への輸送を含め、26回ファルコン9を打上げて、全て成功させた。

宇宙開発企業の業績を比較すればブルーオリジンとスペースXは十両と横綱ほど違う。

それにもかかわらずマスコミがベゾスをマスクと比較したがるのは長者番付で首位を争う2人だからだ。

しかも、月面着陸船の契約訴訟でもわかるように、いざとなれば大富豪の2人は自腹を切って宇宙開発競争に割って入る荒業も見せてくれる。これは話題性としては満点だ。

しかし話題性があるとはいえ、今のままではブルーオリジンはスペースXに追いつけないだろう。「まずは、地球軌道に乗せるロケットを作ってからだよ、ベゾス君」――マスクのそんな声が聞こえてきそうだ。

ベゾスは口先介入するだけでなく、ブルーオリジンのロケット技術力でスペースXと勝負しないと、負け犬の遠吠えで終わってしまう。

<筆者・竹内一正>
作家、コンサルタント。徳島大学院修了。米ノースウェスタン大学客員研究員。パナソニック、アップルなどを経てメディアリング代表取締役。現在はコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)など多数。


TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営

 竹内一正 著
 朝日新聞出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中