最新記事

宇宙開発

ジェフ・ベゾス対イーロン・マスク 宇宙開発をめぐる大富豪の戦いは、ベゾスの負け?

2021年9月7日(火)18時10分
竹内一正(作家、コンサルタント)

衛星インターネット事業でもケチをつけるベゾス

そのスターリンクに対し、ベゾスは「FCC(米連邦通信員会)の規則に違反している」とクレームをつけ、今年8月にFCCに抗議文を送った。

スターリンクは新たな衛星打ち上げについて、2つの計画をFCCに提出し、「後日に最善の計画を選択する」と説明していたが、ベゾスはその申請内容が規則違反だと訴えたのだ。

今後の推移を見守らなければいけないが、ここでアマゾンの子会社で衛星インターネット事業を進めるカイパーシステムズ社について見ておこう。

アマゾンのカイパーシステムズは3236基のカイパー衛星を打上げる計画だが、現時点ではまだひとつも衛星を打ち上げていない。

しかも、打上げる時はブルーオリジンのロケットではなく、ユナイテッドローンチ・アライアンス社のロケットを使用するという。

どうしてブルーオリジンのロケットを使わないのか?

理由は簡単だ。まだブルーオリジンのロケット「ニューシェパード」は高度100キロ程度しか打ち上げらないからだ。

かたやスペースXのスターリンク衛星は約500キロの高度までファルコン9で打上げている。

つまりブルーオリジンの「ニューシェパード」は、現時点では高度100キロでの無重力の宇宙観光を数分間するためのロケットでしかない。

因縁のきっかけはアノ技術だった

ベゾスとマスクの対立は今に始まったことではなく、発端は「摩擦撹拌接合」だった。

ファルコンロケットの燃料タンクの製造工程では、従来のタングステン電極を用いるTIG溶接ではなく、「摩擦撹拌接合」という接合材料に回転ツールを当てて摩擦熱で接合する新しい技術を用いている。

この接合技術の利点は、融点以下で接合するので、接合の歪みが少なく欠陥が発生しにくい。しかも、前処理が必要なく、溶接作業と並行して、仕上がりの確認が超音波で簡単にでき、結果的に製造コストを低く抑えられる。

火星ロケット実現を目標に掲げるスペースXにとって、摩擦撹拌接合はロケットコストを大幅に削減する重要な技術の1つだった。

ところが、スペースXの摩擦撹拌接合の技術者を、ベゾスのブルーオリジンが引き抜いたのだ。

ベゾスとマスクの因縁の戦いはこの時に始まったと言っていい。

スペースXの最大の強みは優秀な人材が集まっていることであり、マスクはAクラスの人材の採用に熱心な経営者だ。

だからこそAクラスの技術者を引き抜かれたマスクはベゾスを批判し、その上、スペースX社内の電子メールのフィルター機能に「blue」と「origin」を加えるようにした。

スペースXのロケット再利用の特許をベゾスが持っていた

アマゾンの米特許8678321の発明者にはベゾスの名前が書かれている。

「宇宙ロケットの海上着地と関連するシステム及び手法」と題されるこの特許の内容は、打ち上げたロケットを地球に戻して回収、再利用することを特許化したものだった。ブルーオリジンが2010年に出願していた。

これぞスペースXがファルコン9で実現した「ロケット再利用」そのものだった。

そもそもスペースXは、2008年に打上げを成功させたファルコン1の設計ではロケット再利用を盛り込んだエンジン構造になっていて、ベゾスの特許を知ったマスクは激怒した。

「そんなことは50年も前から言われていた。独創的でもないし、映画にも出てくる」と批判を展開し、スペースXは反証例を提示してベゾス特許の無効を申し立てた。

最終的には、スペースXの主張が認められた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中