最新記事

日本社会

「社会は変えられない」と思い込む日本人に必要な主権者教育

2021年9月1日(水)14時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

子どもや若者に至っては、上の世代から「出しゃばるな」と頭を押さえつけられるのが常だ。学校でも既存の校則でがんじがらめにされ、自分たちの手でルールを作り、悪い所は話し合って変える、という機会を与えられない。変に異議を申し立てると「内申書に響く」などと脅される。

疑似社会の学校がこうなのだから、「社会は変えられる」という意識が育まれないのは道理だ。「どうせダメ」「従っていたほうがラク」と無力な方向に流れる。最近、民間人校長の手腕で校則を撤廃し、生徒たちの自主性を尊重する学校も出てきているが、こういう実践を促すべきだ。

あと一つ、気になるデータがある。1973年から5年間隔で実施されている、NHKの国民意識調査の結果だ。「憲法によって、義務ではなく権利と定められていると思うものはどれか」という設問で、3つの項目の選択率がかなり変わっている<図2>。

data210901-chart02.jpg

およそ半世紀の変化だが、「税金を納める」を選んだ人の率が33.9%から43.8%に増えている。少子高齢化が進むなか、北欧並みの高税金社会もやむを得ない、という意識の高まりだろう。対して、「意見を表明する」「労働組合を作る」を権利と考える人は減っている。モノ言わず、手を取り合って団結もせず、黙々と税金を納めるだけの国民。こういう構図が見て取れる。ちなみに、デモや陳情(請願)が政治に影響を及ぼし得ると考える人の率も、同じ期間で47.9%から21.4%に下がっている。

まさに怖い変化で、学校で主権者教育が求められるゆえんだ。情報化社会ではSNS等で意見を発信するのは重要で、それが政治家の目に止まり社会変革につながることも多々ある。そういう具体例を提示しつつ、生徒の意識を高めていくことが求められる。来年度から成年年齢が18歳に下がる。青少年に植え付けるべきは、無力感ではなく有能感だ。

<資料:内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2018年)
    NHK放送文化研究所『現代日本人の意識構造・第9版』(2020年)>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中