最新記事

テロリスクは高まるか

アフガニスタンはなぜ混迷を続けるのか、その元凶を探る

THE ROOT OF THE CHAOS

2021年9月1日(水)11時30分
新谷恵司(東海大学平和戦略国際研究所客員教授)

西側世界は、イスラム・テロと聞くと居ても立ってもいられない。移民イスラム教徒との摩擦や、実際に発生するテロ攻撃事件の影響で、多くの欧州諸国では、イスラモフォビア(恐怖症)に基づく合理的とはいえない政策や政治が行われて物議を醸している。2015年1月に起きたフランスの風刺週刊紙シャルリ・エブド襲撃事件で見られた対応などがそうだ。

東京オリンピックの閉会式で五輪旗を受け継いだパリの女性市長アンヌ・イダルゴは、アフガニスタンの北東にあるパンジシール渓谷で唯一タリバンに抵抗しているアフマド・マスードを支援せよと訴えた。その理由は、「若い女性を強制的に結婚させるなどということは人道的確信を持って拒否する」「テロリストはすぐにもタリバンの下に安全なアジトを見つけるだろう」といったものだった。

しかし、考えてみてほしい。もし彼女の言うとおりに内戦を支援するなら、アフガニスタンの男女はさらなる苦しみに投げ込まれ、ISなどのテロリストはより活動がしやすくなるだろう。

また、20年前にブッシュ米政権と共にイギリスを対アフガン戦争へと導いたトニー・ブレア元首相は、「アフガニスタンの人々を見捨ててはならない」と、自身が主宰するシンクタンクのウェブサイトを通じて長文の声明文を発表した。

「(撤退は)包括的な戦略ではなく『政治的』に決められた。(中略)『永遠の戦争を終わらせる』という不器用な政治的スローガンに従ってしまった」と、バイデン政権の身勝手さを厳しく追及する内容だ。この中でブレアは、「西側の政策決定者たちは、『イスラム過激主義』と呼ぶことにさえ合意していないが、もしそれが戦略的な挑戦であると認識できていたなら、アフガニスタンからの撤退という決定は決してしなかっただろう」と、20年前に決断した自身の選択を擁護するだけでなく、新たな介入の是非にまで議論を広げるのであった。

ブレアはBBCの取材に対して、「アフガン経済規模は2001年当時に比べて3倍になり、今年は女性5万人を含む20万人が大学に通っていた」と「民主社会」の崩壊を悔しがった。だが、彼が助けよとアピールした「アフガニスタン人」とは、どのような人たちのことなのであろうか。

ここに、19世紀から続くイギリスの分断統治の典型を見る。アフガニスタン人とは、タリバンに代表されているパシュトゥン人のことであるということを知れば、タリバンは欧米式の大学教育から少しも利益を得ていない。

ブレアは、このことをどう説明するのであろうか。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ワールド

カンボジアとの停戦維持、合意違反でタイは兵士解放を

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中