最新記事

テロリスクは高まるか

アフガニスタンはなぜ混迷を続けるのか、その元凶を探る

THE ROOT OF THE CHAOS

2021年9月1日(水)11時30分
新谷恵司(東海大学平和戦略国際研究所客員教授)

しかし、では何ができただろうか、と言えばなかなか難しかったようだ。復興は待ったなしのプロセスだったのである。欧米とは共に歩まなければならない──。日本は「人間の安全保障」の理念に基づく質の良い支援ができた。ただ、それがどれほど役立ったであろうか。結果としてはアフガニスタンを分断し、対立を解消できないままに駐留し、全てを失う側にいたのである。

レッシングは、ムジャヒディン(聖戦士のこと。聖戦=ジハードを行う戦士)の「顔立ちがまったく違う」と驚いているが、私はこの言葉をアフガニスタンから帰ってきた仲間たちからよく聞いた。特に、ハザラ人には日本人より日本人らしい顔立ちの人がいたのだという。

北からも南からも異民族の侵入があり、交易路でもあったアフガニスタンでは、客人は手厚くもてなし、侵略者に対しては断固として抵抗するという文化が長い年月の中で育まれたのだ。

『アフガニスタンの風』の同じ見開きページから、もう1カ所、レッシングの記述を引用してみよう。

ひとりのムジャヒッドがいう。「驚くことはないじゃないか。英国は人びとを『文明化』する権利があると主張して、世界の半分を侵略した。われわれをも文明化しようとした。いまや英国はかつての帝国を失ったが、帝国主義までやめたわけじゃない。ロシア人は侵略し破壊する際、それを『文明化』であり『近代化』だという。ヨーロッパの帝国主義諸国がやったのとまったく同じだ」(同書97ページ)

「辺境」の宿命と過激主義

アフガニスタンの今を語る上で必ず言及されるのは、「グレート・ゲーム」である。グレート・ゲームとは、19世紀から20世紀にかけての、主にアフガニスタン周辺の支配権をめぐる大英帝国とロシア帝国の戦いのことだ。戦史をたどると、なぜ大国は歴史に学ばないのか、とあきれてしまう。取っては取られ、傀儡の王、支配者を置いて保護国にしても、結局は敗走する......。

1986年にレッシングの会ったムジャヒッド(ムジャヒディンの単数形)はソ連軍と戦っており、彼がここで言及したイギリスは、その時のイギリスについてであった。しかしこの言葉は、「アフガニスタンを民主国家にする」として始まった2001年からのプロセスの到来と結末を、見事に言い当てているではないか。

イギリスとロシアの覇権競争に始まり、それをソ連、アメリカが引き継ぐ形で進行した近代のアフガニスタンをめぐる戦乱は、当初は確かにこの国やその住民に対する「無知」や不見識に始まった。しかし、「分かっていても引きずり込まれる」という現象の背景には、歴史的必然のようなものを感じるし、ペルシャ、ロシア、インド・パキスタンといった大国に囲まれた「辺境」が忍ばなければならない宿命なのかもしれない。

ただ、それに加えてソ連の侵攻が起きて以降、タリバンの台頭や、「対テロ戦争」が仕掛けられた2001年以降を語るとき、新たな要素として「イスラム過激主義」が果たしてきた役割を直視しないわけにはいかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中