最新記事

酸素

医療用途を優先 酸素不足でロケット飛べず...NASA、スペースXが苦慮

2021年9月16日(木)16時45分
青葉やまと

地球観測衛星「ランドサット9」の打ち上げも延期になった...... (写真はスペースXのファルコン9)REUTERS/Steve Nesius

<推進剤の液体酸素が不足。打ち上げ延期が長引けば生活インフラに影響も、と専門家は懸念している>

新型コロナウイルスの重症患者をケアするため、医療用酸素の需要が各国で急増している。一部の国では緊急措置を導入し、工業用の液体酸素を医療用に振り向けている。

アメリカも例外ではなく、従来供給を受けていた工業分野では酸素不足が広がりつつある。生活インフラも影響を受けた。南東部フロリダ州の一部地域では8月、水道水の給水制限に踏み切った。浄水施設で使用する工業用酸素の納入が滞り、水質を確保できなかったためだ。ロサンゼルス・タイムズ紙などが報じた。

医療用途への転用は人命優先のため必要な措置ではあるが、今後も供給回復の見通しが立たないことから、さまざまな業界が悲鳴を上げている。パンデミックとは縁遠い分野と思われがちな、航空宇宙産業もそのひとつだ。

実際に起きた打ち上げの延期

NASAは8月下旬に声明を発表し、本来であれば9月16日に予定していた地球観測衛星「ランドサット9」の打ち上げを23日以降に繰り下げる方針を示した。声明は、医療用の液体酸素への需要が高まっており、製造元のエアガス社からNASAへの供給を管轄する米国防兵站局への供給体制に問題が生じていると説明している。

その後、予定日まで2週間を切った9月15日、NASAは再び計画の変更をアナウンスした。新たな打ち上げ日はさらに4日遅れの「9月27日以降」となっている。

イーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースXにも、酸素問題が影を落とす。宇宙ポータルの『Space.com』によると、同社社長・最高執行責任者のグウィン・ショットウェル氏は8月下旬、出席した宇宙シンポジウムの場で、酸素の調達について懸念を表明した。

ショットウェル氏は「実際のところ私たちは今年、打ち上げのための液体酸素不足による影響を被ることでしょう」と述べた。医療用途を優先する姿勢を示したうえで、「けれど液体酸素を分けてくれる方がいれば、メールでご連絡を頂ければ」 とも述べるなど、焦りを滲ませる。

推進剤として不可欠な酸素

推進剤の一部として使われる液体酸素(LOX)は、特定のロケットの打ち上げになくてはならない存在だ。推進剤の燃焼方式にはさまざまなタイプがあるが、一般に液体燃料ロケットの場合、燃焼室内で液体酸素などの酸化剤と燃料を混合して燃焼させる。高高度では大気の密度が低くなるため、燃焼を助ける十分な酸素を大気中から取り入れることができない。このため、容積効率に優れる液体酸素などの形であらかじめタンク内に注入しておく必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中