最新記事
サイエンスDNAに残された古代のウイルスの痕跡は「ジャンクDNA」ではない......細胞が免疫化されている
DNAに残された古代のウイルスの痕跡はウイルスへの感染防御に寄与している可能性がある Shutter2U -iStock
<古代のウイルスの痕跡はあらゆる動物のゲノムに残されており、何ら機能を持たない「ジャンクDNA」だと考えられてきたが、ウイルスへの感染防御に寄与している可能性があることが明らかに>
「内在性ウイルス様配列(EVE)」とは、ウイルスのゲノム配列が生物の生殖細胞系に感染することによって宿主ゲノムに内在化したことに由来するゲノム配列である。このような古代のウイルスの痕跡はあらゆる動物のゲノムに残されており、ヒトゲノムでは内在性ウイルス様配列が約8%を占めている。
これまで、内在性ウイルス様配列は、何ら機能を持たない「ジャンクDNA」だと考えられてきたが、ウイルスへの感染防御に寄与している可能性があることが明らかとなった。つまり、内在性ウイルス様配列は、意味があって、世代を超えて受け継がれ、そのまま残されてきたのだ。
恐竜時代に有袋類のDNAに組み込まれたボルナウイルスも
豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究チームは、コアラ、ダマヤブワラビー、タスマニアデビル、スミントプシスなど、豪州で生息する有袋類13種35個体のDNAとRNAを分析し、2021年9月2日、ウイルス学のオープンアクセス科学ジャーナル「ウイルス・レボリューショ」でその研究成果を発表した。
これによると、サンプルとなったすべての個体で、ボルナウイルス、フィロウイルス、パルボウイルスからの内在性ウイルス様配列が見つかった。南アメリカ大陸とオーストラリア大陸がまだ陸続きであった恐竜時代に有袋類のDNAに組み込まれたボルナウイルスもあったという。
従来、ボルナウイルスは1億年前に進化したと考えられてきたが、ほぼすべての有袋類のDNAで見つかったボルナウイルスは1億6000万年前のものであった。
また、内在性ウイルス様配列の一部はRNAに転写されていた。このRNAはタンパク質へ翻訳されずに機能する「ノンコーディングRNA」で、遺伝子の転写の調整やウイルスに対する防御など、様々な細胞機能に役立っている。コアラでは、内在性ウイルス様配列の一部が、動植物の免疫系で用いられる「siRNA」や「piRNA」に転写されていることが確認された。
そのメカニズムはワクチン接種と似ている
研究論文の筆頭著者でニューサウスウェールズ大学の博士課程に在籍するエマ・ハーディング研究員は「動物のDNAは基本的にウイルス配列を取得している。そのメカニズムはワクチン接種と似ているが、世代を超えて引き継がれ、ウイルスの痕跡を保持することで、将来の感染に対して細胞が免疫化されている」と述べている。
ハーディング研究員は、有袋類を対象とした今回の研究成果をふまえ、「ヒトを含む他の動物でも同様のことが起こっているかもしれない」と考察する。DNAに内在するウイルスの痕跡をより詳しく調べることで、これらが我々をどのように防御しているのかを知る手がかりが得られるかもしれない。