最新記事

中国

AUKUSは対中戦略に有効か?──原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解

2021年9月28日(火)16時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
バイデン大統領

米英豪のAUKUSに関するオンライン会談におけるバイデン大統領(9月15日) Tom Brenner-REUTERS

バイデンが強引に成立させた米英豪軍事同盟AUKUSにより米・EU間に亀裂が走っているだけでなく、原潜が完成する2040年には中国のGDPはアメリカを抜いている。豪・EUの貿易協定も破談になりそうで中国を喜ばせている。

日本の自民党総裁候補の原潜に関する見解も分析したい。

オーストラリアで製造する原潜の完成時期は2040年頃──そのとき中国のGDPはアメリカを抜いている

9月15日に予告なしに発表された米英豪3ヵ国から成る軍事同盟AUKUS(オーカス)により、オーストラリアがそれまでフランスと約束していた潜水艦製造計画が一方的に破棄され、米英に乗り換えたことによってフランスを激怒させた。

そうでなくともバイデン大統領の拙速なアフガニスタンからの米軍撤退の仕方に失望していたEUがフランス側に立ったため、AUKUSの誕生によってEUとアメリカの間に亀裂が走り、中国を喜ばせていることは9月24日のコラム<中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点――日本は選択を誤るな>に書いた通りだ。

中国が喜んでいるのはそれだけではない。

実は米英の技術提供の下でオーストラリアで製造される潜水艦は原子力潜水艦で完成は2040年になってしまうからだ。

日本ではあまり報道されていないが、9月16日のAP通信が"Australia: Strategic shifts led it to acquire nuclear subs"(オーストラリア:戦略的転換により原子力潜水艦を保有することになった)というタイトルで、オーストラリアのモリソン首相の言葉として伝えている。

報道によればモリソン首相は「オーストラリアの都市アデレードに建設される予定の原子力潜水艦の1号機は、2040年までには建造されるだろうと期待している」と語ったという。

フランスの防衛当局者も「オーストラリアには悪いニュースだ」として「完成は良くても2040年まで待たなければならない」とツイートしている。

2040年と言えば、中国のGDPはとっくにアメリカを抜いていると思われる時期ではないか。

ひところ、中国のGDPは2035年にはアメリカを抜くとIMFにより推測されていたが、最近ではイギリスのシンクタンクが2028年までに抜くという予測データを示しているくらいだ。

その時期が2028年だろうと2035年だろうと、少なくとも2040年には(もし中国が崩壊していなければ)アメリカを追い越しているのは確かだろう。ということは、それだけの経費を軍事産業にも注ぐことができているということになるので、軍事力においてもアメリカより勝っていることになる。

そのような時期に完成される原子力潜水艦が、対中戦略に有効だと考えるのには、無理があるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中