最新記事

アフガニスタン

タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年

2021年9月6日(月)20時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国やロシアなどを中心としたユーラシア大陸は、ほぼ真っ赤に染まっているのに対して、北西ヨーロッパの一部の国とアメリカ、オーストラリア、日本などが青く染まっている。全体的に見れば赤い国々の方が多いくらいだ。

これを一人当たりGDPの多寡で区分したIMFの地図と重ねてみると、ほぼ同じであることが分かる。以下の地図では緑が濃いほど一人当たりのGDPが高く(経済的に豊かで)、赤が濃くなるほど一人当たりのGDPが低く、貧乏な国であることを示している。

endo20210906191202.jpg
IMFデータ2019より

これは何を意味しているかと言うと、「民主主義が浸透している国は一人当たりのGDPが高く、一定程度の中間層がおり、教育も行きわたるという土壌がある。しかし一人当たりGDPが低い国々では経済的に豊かでないので教育も行きわたらず、自ら意思決定をして自由に選択するゆとりはなく、民主は育ちにくい。だから選挙はあっても専制主義的な統治をせざるを得ない」ということを表している。

ましてや強烈な宗教性を持っているアフガニスタンのような国に武力侵攻して「民主主義を植え付けよう」などということは、土台無理な話なのである。

バイデン大統領は対中包囲網を形成するに当たって「民主主義と専制主義の戦いだ」と言っているが、もし本気でそう思っているとしたら、アメリカは必ず中国に負けるだろう。なぜなら世界の半分以上は専制主義的傾向を持つ国家によって占められているからだ。

しかし肝心なのは、「一人当たりのGDPが小さいということは、これから発展するポテンシャルが高い国々であることを示している」という事実だ。習近平のシナリオの軸はここにある。

つまり、「習近平が赤色の国々を、一帯一路などを通してチャイナ・マネーにより中国に引き付けていく戦略」は、「GDP成長が見込めない少数の民主度の高い先進国と同盟を組むバイデンの戦略」よりは、将来的により大きな力を持ち得る可能性を秘めている。

アメリカが武力攻撃で相手国を民主化させていこうという試みの時代は、アフガンの米軍撤退時に見られた失策で終わったと言っていいが、だからといって対中包囲網を「民主主義対専制主義の戦い」という括りで位置付けるバイデンの戦略で、本当に中国に勝てるのだろうかという危惧も、一方では抱く。

言論弾圧をする中国が力を伸ばしていくことは阻止しなければならないが、その際に世界を俯瞰する視点を、われわれは持たなければならないだろう。

なお本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中