タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年
中国やロシアなどを中心としたユーラシア大陸は、ほぼ真っ赤に染まっているのに対して、北西ヨーロッパの一部の国とアメリカ、オーストラリア、日本などが青く染まっている。全体的に見れば赤い国々の方が多いくらいだ。
これを一人当たりGDPの多寡で区分したIMFの地図と重ねてみると、ほぼ同じであることが分かる。以下の地図では緑が濃いほど一人当たりのGDPが高く(経済的に豊かで)、赤が濃くなるほど一人当たりのGDPが低く、貧乏な国であることを示している。
IMFデータ2019より
これは何を意味しているかと言うと、「民主主義が浸透している国は一人当たりのGDPが高く、一定程度の中間層がおり、教育も行きわたるという土壌がある。しかし一人当たりGDPが低い国々では経済的に豊かでないので教育も行きわたらず、自ら意思決定をして自由に選択するゆとりはなく、民主は育ちにくい。だから選挙はあっても専制主義的な統治をせざるを得ない」ということを表している。
ましてや強烈な宗教性を持っているアフガニスタンのような国に武力侵攻して「民主主義を植え付けよう」などということは、土台無理な話なのである。
バイデン大統領は対中包囲網を形成するに当たって「民主主義と専制主義の戦いだ」と言っているが、もし本気でそう思っているとしたら、アメリカは必ず中国に負けるだろう。なぜなら世界の半分以上は専制主義的傾向を持つ国家によって占められているからだ。
しかし肝心なのは、「一人当たりのGDPが小さいということは、これから発展するポテンシャルが高い国々であることを示している」という事実だ。習近平のシナリオの軸はここにある。
つまり、「習近平が赤色の国々を、一帯一路などを通してチャイナ・マネーにより中国に引き付けていく戦略」は、「GDP成長が見込めない少数の民主度の高い先進国と同盟を組むバイデンの戦略」よりは、将来的により大きな力を持ち得る可能性を秘めている。
アメリカが武力攻撃で相手国を民主化させていこうという試みの時代は、アフガンの米軍撤退時に見られた失策で終わったと言っていいが、だからといって対中包囲網を「民主主義対専制主義の戦い」という括りで位置付けるバイデンの戦略で、本当に中国に勝てるのだろうかという危惧も、一方では抱く。
言論弾圧をする中国が力を伸ばしていくことは阻止しなければならないが、その際に世界を俯瞰する視点を、われわれは持たなければならないだろう。
なお本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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