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サイエンス眼がついた人工脳が作製される
60日で視覚器として成熟した脳オルガノイド CREDIT: ELKE GABRIEL
<ヒト人工多能性幹細胞(iPSCs)を用いて、眼の発達途上で現れる器官「眼杯」がついた脳オルガノイドを作製することに成功した>
独ハインリッヒ・ハイネ大学らの研究チームは、ヒト人工多能性幹細胞(iPSCs)を用いて、眼の発達途上で現れる器官「眼杯」がついた脳オルガノイドを作製することに成功した。
脳オルガノイドは、左右対称の眼杯を自発的に発生させたという。一連の研究成果は、2021年8月17日、学術雑誌「セル・ステム・セル」で発表されている。
人工的に培養された、ヒトの脳を模倣する三次元の凝集体
脳オルガノイドとは、成人から採取され、幹細胞へと変換した「人工多能性幹細胞」から人工的に培養された、ヒトの脳を模倣する三次元の凝集体だ。これまで、ヒトの脳の発達や疾患にまつわる様々な研究に用いられてきた。
研究チームは、ドナー4名の細胞から作製したヒト人工多能性幹細胞から314個の脳オルガノイドを生成させ、そのうち72%で眼杯が形成された。眼の発生を促すため、培地に酢酸レチノールを加えたところ、ヒト胚での眼の発生と同様に、30日後には眼の発生段階に現れる「眼胞」がみられ、60日以内に視覚器として成熟した。
これらの眼杯には様々な網膜細胞が含まれ、光に応答するニューラルネットワークを形成していた。水晶体(レンズ)や角膜組織もあり、脳領域との接続性も認められた。研究論文の責任著者でハインリッヒ・ハイネ大学のジェイ・ゴパラクリシュナン教授は「哺乳類の脳では、網膜神経節細胞の神経線維が脳領域に接続しようと伸びる」と解説する。
先天性網膜障害のモデル化などに役立つ可能性
2021年5月に発表された研究論文では、ヒト胚性幹細胞を用いて眼杯が生成されることが示された。別の研究では、眼杯のような組織をヒト人工多能性幹細胞から生成できることも示されている。しかし、これまでの研究では、眼杯やその他の網膜構造が脳オルガノイドと機能的に統合されていなかった。
ゴパラクリシュナン教授は、今回の研究結果について「脳オルガノイドには、光を感知し、体内と同様の細胞タイプを宿す感覚器官の原基を生成する力があることが示された」と評価し、「脳オルガノイドは、胚発生期における脳と眼の相互作用の解明や先天性網膜障害のモデル化などに役立つ可能性がある」と期待を寄せている。研究チームでは、今後、眼杯の視覚を長期間維持するための手法の開発に取り組む方針だ。