最新記事

生態

ドングリキツツキの新たな生態が判明 一夫多妻制で繁殖を有利に

2021年8月23日(月)19時00分
青葉やまと

ドングリキツツキは、兄弟姉妹が育児に参加するというめずらしい習性でも知られている through-my-lens-iStock

<枯れ木に食料を貯め込むドングリキツツキに、新たな個性が判明した>

ヒトの世界を見るかぎり、一夫多妻制を敷く文化は限られているかもしれない。ところが一部の鳥類においては、種全体の子孫繁栄を助けているようだ。ドングリキツツキと呼ばれるめずらしい習性をもったキツツキについて、アメリカの研究者たちが解き明かした。

北米などに分布するドングリキツツキは、越冬のために計画的にドングリを蓄えるというめずらしい行動で知られる。立ち枯れた木や木製の電柱などを見つけては、ときに1万個を超える膨大な数の穴を開け、穴の一つひとつにドングリの実を貯蔵する。(鳥の名で検索すると写真が多くヒットするが、集合体恐怖症の方はご注意を。) 雨の日が増え好物の虫が飛ばない冬季になると、こうして用意したドングリいっぱいの枯れ木は、日々を生き抜くための貴重なエネルギー源となる。

ユニークな習性をもつこの鳥について、このたび繁殖という面で新たな発見があった。多数のメスを相手にするオスの方が、繁殖を行える年数が延び、生涯で残せるヒナの数が増えるのだという。

40年にわたる研究で解明

ドングリキツツキのオスには、特定のメスを選び1対1のペアで営巣する個体と、1つの巣に複数のメスを迎える個体とがある。アメリカの生態学者たちが調査したところ、複数のメスを相手にする個体の方が生殖を有利に運んでいることがわかった。

研究の結果、「一夫多妻制」で営巣する場合、営巣1回あたりの産卵数は低下することが確認された。しかし、生殖可能な期間が2〜3年延びることで営巣回数が増え、生涯全体としては純粋なペアで営巣するオスに比べ、1.5倍の数のヒナを設けていることが判明した。

メスについても生殖可能な期間がやや延び、生涯全体では一夫多妻制の方が有利とまではいえないものの、ペアでの営巣と同水準の数のヒナを設けている。

研究論文は米スミソニアン博物館群の一角、国立自然史博物館で館長を務めるサハス・バーヴ生態進化生物学博士らのチームが著し、学術誌『英国王立協会紀要』に掲載された。

鳥類の生態を正確に把握するためには、非常に多数のサンプルと長期にわたる観察が求められる。バーヴ博士たちはカリフォルニア州にある広大なヘイスティングス自然歴史保護区において、40年にわたるデータ収集を行なった。個々の鳥を識別することは困難を極めたため、小型の無線機をハーネスで背中に背負わせることで位置を追跡した。さらに499羽から遺伝子サンプルを採取することで、研究に必要なデータを収集したという。

バーヴ博士は米スミソニアン誌に対し、「(研究結果は)長期に及ぶ動物行動学上の研究の貴重さを物語るものです」と述べ、40年にわたる記録の結実を喜んでいる。博士はまた、自然淘汰のメカニズムは多くの種に共通するものだとも述べ、本研究がキツツキに限らず他の動物の行動にも役立つ可能性があるのではないかと期待している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 2人負

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中