最新記事

保険

中国、記録的豪雨で迫られる災害保険加入 中央政府による後押しが課題

2021年8月17日(火)10時18分
豪雨で冠水した中国・鄭州市の市街地

人口の多い中国中部、河南省で今年7月起きた記録的豪雨をきっかけに、同国の地方当局は自然災害に備えるための保険加入の検討を迫られている。写真は7月、豪雨で冠水した鄭州市の市街地(2021年 ロイター/Aly Song)

人口の多い中国中部、河南省で今年7月起きた記録的豪雨をきっかけに、同国の地方当局は自然災害に備えるための保険加入の検討を迫られている。保険会社にとっては、巨大な市場が開けるかもしれない。

台風被害を受けやすい地域を中心に、多くの中国地方政府が既に保険加入を視野に入れている。しかし、保険加入が遅れていた河南省での豪雨では、損害額が1337億元(206億4000万ドル)と上半期の総生産(GDP)の4.6%相当に膨らんだ。このため当局や専門家からは、さらに加入を進める必要があるとの声が出ている。

世界的に見ると、災害による経済損失が保険でカバーされている割合は30―40%で、北米では60%に達する。だが、スイスの再保険会社、スイス・リーによると、地球温暖化で異常気象の頻発が警告されている中国では、この割合が10%にとどまっている。

公式データによると、中国の主要な654都市のほぼ全てが洪水や浸水の被害を受けやすい状態にある。急速な経済成長により、氾濫原だった場所をコンクリートで覆った都市部が、四方八方へと広がったからだ。

保険会社にとって中国は将来の潜在的な収益源だが、世界的にも国内的にもハードルが残っている。

世界的には、異常気象が頻発して被害も拡大する中、保険会社は気候変動リスクをまだ商品設計に織り込み切れておらず、最終利益を守るための対応も間に合っていない。このため先進国でも新興国でも、保険の提供スピードは鈍い。

中国では災害保険が、まだ産声を上げたばかりだ。これは中央政府による後押しが欠けていることが一因。中央政府の2021―25年の5カ年計画では、災害保険は簡単に触れられているだけだ。

中国ではまた、災害保険への加入が地方政府の意志に大きく委ねられている。不動産や資産の所有者が支払い能力などに応じて保険を選ぶ日本やオーストラリアなどの先進国と異なり、地方政府が自らの懐から保険料を払わなければならないため、加入に前向きな地方政府ばかりではない。

試験プログラム

中国の銀行・保険当局がロイターに説明したところでは、今のところ計15の省と都市が災害保険の試験プログラムに参加している。当局は最近の大災害を受け、さらに多くの保険商品の提供を求めていく方針だとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに追加出資 最大5.9

ワールド

ブラジル前大統領、ルペン氏公職追放を「左派的司法活

ワールド

中国軍、台湾周辺で陸海軍・ロケット部隊の合同演習

ビジネス

テスラ第1四半期納車台数は前年比マイナスか、競争激
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中