最新記事

フィリピン

ロックダウン違反者を警備員が射殺 過剰暴力と批判高まるフィリピン

2021年8月15日(日)15時59分
大塚智彦
フィリピンの首都マニラ市内で検問所で警戒にあたる警官

フィリピンの首都マニラ市内で検問所で警戒にあたる警官。Eloisa Lopez - REUTERS

<「デルタ株の猛威を防ぐ」という大義のため、また人権がないがしろにされる事態が起きている>

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、市民活動に厳しい規制や制限を課しているフィリピンで、規制に違反して検問を通り過ぎようとした一般市民に対して警備員が発砲、殺害する事件が起きた。

フィリピンの人権団体などが「過剰暴力であり、人権侵害である」として独自の調査に乗り出すとともに、警察当局に対して徹底的な捜査を求める事態となっている。

フィリピンでは警察官による過剰な暴力や殺害などによる人権侵害が以前から深刻化しており、最高裁判所は警察官にボディカメラ装着を義務付ける判断を下したばかり。犯罪容疑者などへの警察の「超法規的措置や違法行為」を予防することが期待されているところだった。

一方では警察官以外にもコロナ規制取り締まりにあたる地方行政機関所属の警備員や法執行機関職員などによる「権威を笠にした不法行為」が頻発しており、今回の射殺事件も規制区域に設けられた検問所にいた警備員による犯行だった。

おもちゃの銃所持が発砲理由か

マニラ首都圏警察や地元メディアなどによると8月8日にマニラ・トンド地区の区域の教会に設けられた検問所で警戒に当たっていた地方行政機関の警備員セザール・パンラケ容疑者が検問を違法に通り抜けようとした廃品回収業のエドアルド・ゲニョガ氏(55)に対していきなり発砲。エドアルド氏はその場で射殺された。

エドアルド氏は当時木製のおもちゃの銃を所持していた、というがそれが「射殺の原因」なのかどうかは現時点では判明していないという。

事件当時は夜間外出禁止令が出ており、居住地域から外にでることは原則禁止だったという。マニラ警察では住民からの通報を受けてセザール容疑者を殺人の疑いで逮捕、取り調べを続けている。

フィリピンの人権委員会はこの射殺事件を受けて「不必要な殺害の可能性が極めて高い」として調査に乗り出す方針を示した。

人権組織「カラパタン」も事件を非難するとともに「警察をはじめとする捜査当局、法執行機関関係者などによる過剰な暴力行為を容認しているのは大統領である」としてドゥテルテ大統領に非難の矛先を向けている。

ドゥテルテ大統領は2016年の就任以来、麻薬犯罪関連容疑者に対する強硬姿勢を打ち出し、捜査現場で法に基づかない「超法規的殺人」を黙認する姿勢を示すなどして国内外の人権団体などから厳しい批判を現在も浴びている。

そのドゥテルテ大統領はコロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年に、政府が講じる各種の感染拡大防止策の規制への違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との趣旨を警察に対して行ったという。

規制違反で150人以上殺害のデータも

国際的な人権監視組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、2020年の4〜7月の4カ月間だけで155人がコロナ規制違反などで殺害されているというデータもある。

2020年4月には規制区域から出ようとした元兵士が、制止しようとした警察官に所持していた銃を抜こうとして、その場で射殺される事件も起きている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米クラウドフレアで一時障害、XやチャットGPTなど

ワールド

エプスタイン文書公開法案、米上下院で可決 トランプ

ビジネス

トヨタ、米5工場に1400億円投資 HV生産強化

ビジネス

ホーム・デポ、通期利益見通し引き下げ 景気不透明で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中