最新記事

医療

コロナ最前線の医師が見た「五輪バブル」の内と外

2021年8月6日(金)10時35分
救急医として東京五輪の会場に派遣された横堀将司医師

新型コロナウイルス禍の最前線に立ってきた横堀将司医師は今、救急医として東京五輪の会場に派遣され、不思議なほど穏やかな日々を送っている。しかし勤務する病院に戻れば、多くの新型コロナウイルス患者の対応に当たることになる。8月2日、重量挙げ会場の東京国際フォーラムで撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

新型コロナウイルス禍の最前線に立ってきた横堀将司医師は今、救急医として東京五輪の会場に派遣され、不思議なほど穏やかな日々を送っている。今週は重量挙げの会場を担当、最終日の4日までに大けがした人はなく、コロナの陽性者も出なかった。

東京五輪はほぼすべての競技が無観客となり、選手を始めとした大会関係者には行動ルールが定められている。47歳の横堀さんが勤務する日本医科大学付属病院の高度救命救急センターの状況とは別世界だ。そこは今、医療崩壊を招きつつあるコロナの感染第5波と戦っている。

「今、2つの異なる世界にいる」と、横堀さんは言う。「病院のような現実の世界に戻れば、たくさんのコロナ患者の対応に当たる」。横堀さんが派遣された重量挙げの会場、東京国際フォーラムは人が少なく静かだ。「天国と地獄のよう」と、横堀さんは話す。

横堀さんが行き来する東京五輪の「バブル」の内と外は対照的だ。選手村のアスリートや関係者はワクチンの接種率が8割を超える。PCR検査が義務付けられ、行動も制限されている。一方、東京都など首都圏の接種率は低いまま。検査数は十分ではなく、行動制限も厳格とは言えない。

日本医科大学付属病院は救急医療に定評があり、五輪の支援機関に選ばれた。女子テニスの大坂なおみ選手のファンだという横堀さんは、ボランティアとして参加することを引き受けた。

横堀さんは会場の医療ステーションを巡回し、看護師に指示してドーピング検査の採血をすることもある。観客がいない分、会場の業務は軽減されていると、ここで働くボランティアは話す。

五輪の仕事をしている最中も、横堀さんのもとには病院から電話がかかってくることがある。コロナの重症患者に人工呼吸器を使うべきかどうかなど、横堀さんの助言を仰ぐためだ。

五輪の仕事が休みの8月1日、横堀さんは病院の救急救命センターに戻った。重症病床はあと1つしか空きがないとロイターの記者に話した直後、新たに患者が発生し、10のベッドすべてが埋まった。

横堀さんが懸念するのは、若い世代の感染者が増加していることだ。治るまでに時間がかかり、ベッドがなかなか空かないという。

「感染拡大がいつピークアウトするのかまだ分からない。それだけに心配だ」と横堀さんは語り、救急救命センター内にある60床を監視するモニター映像に目を落とした。

8月8日に五輪が閉幕しても、横堀さんはパラリンピックが終わるまで大会の支援を続けようと考えている。しかし、病院の状況が悪化すればすぐ救急救命センターに戻るつもりだ。

「大会期間中に感染のピークを迎えたくはない」と、横堀さんは言う。「だが、そうなったら勤務のシフトを変えるしかない。こっちにもっと多くの労力を割かざるをえない」

(Reporting by Ju-min Park; Editing by David Dolan and Jane Wardell、日本語記事作成:久保信博 編集:山口香子)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・インド、新たな変異株「デルタプラス」確認 感染力さらに強く
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ispace、開発遅れでエンジン変更 日米の月着陸

ビジネス

中国の銀行株が上昇、銀行株保有規制の緩和検討と報道

ビジネス

三菱電、ローム・東芝の半導体事業の統合に向け協議開

ワールド

UAE、ホルムズ海峡防衛へ多国籍部隊の創設働きかけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 6
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 7
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 8
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    実は「ミュージカルはポリティカル」?...社会の闇を…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中