最新記事

ドキュメンタリー

誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎

The Loneliest Whale in the World

2021年8月3日(火)20時58分
アリストス・ジョージャウ

210810_17P50_52H_01.jpg

ゼマン監督 LARRY BUSACCA/GETTY IMAGES

たった一人で、誰にも知られず死んでいくのは耐えられないと思った人もいるよね。いずれにせよ、私は決めた。クジラと私たちの関係を問い詰め、それがどう変わってきたか、そして今なぜ私たちがこんなにクジラを愛するのかを探ってやろうと。

クジラの歌については分からないことだらけだ。そうなると犯罪実録ものを手掛けてきた私の本能に火が付く。よし、そこに伝説のクジラがいるならば探してやろう。大海原にミステリーがあるなら、そいつを解き明かそう。まあ、そう思ったわけだ。

ちなみに地上の私たちは視覚に頼って生きているが、海中の生物にとっては聴覚が全て。いくら目を凝らしても海面には何もいないが、海中には多彩な生き物がいる。彼らは、光ではなく音を頼りに生きている。そうだとすれば、クジラのように知的な動物は、音に対して何か感情的な反応をしている可能性もある。

――この映画を見た人には何を期待する?

第1に、クジラの歌がどんなに素晴らしいかを知ってほしい。生物音響学者のロジャー・ペインがアルバム『ザトウクジラの歌』を出したのは1970年だが、当時の人たちはその神秘の歌声に心を奪われ、こんな「天使の歌声」を持つ動物を殺してはいけないと思った。それが今の地球環境保護の運動につながっている。

人間は地球の支配者ではないと、いま一度みんなで確認すべきだ。私たちは最強の種でも、唯一の種でもない。膨大な数の種の1つにすぎない。

あのクジラをやたら擬人化して、大変な孤独を感じていると決め付けるのに問題があるのは承知している。でも、今は海と海の生き物に共感し、守ってやることが必要だと思う。今ならまだ守れるし、世界を変えられる。

この映画のテーマは「聞く」ということだ。私たちは互いに耳を傾け、互いにつながらなければいけない。だから海の声、自然の声に耳を傾けよう。掘り返して見つけ出したい謎もたくさんあるけれど、今は一休みして、自然の声に耳を傾けるのがいい。

――あのクジラが本当に「孤独」を感じていたかどうか、科学者の見解は割れている。いろんな議論があるし、それが当然だと思う。

70年代には、誰もが直感的に、動物にも感情はあると信じていた。でも今は、それを裏付ける科学的な証拠が積み上げられている。群れの1頭が死ぬと、仲間のクジラが悲しそうな行動を見せるという報告もある。

でも、「52ヘルツのクジラ」が孤独をどう感じていたかは知る由もない。そもそも孤独とは何か。悲しいことか、崇高なことか。この映画が、そんなことを考えるきっかけになればいいと思う。

ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イラン、核協議の議題や開催地巡り溝 実現に不透明

ワールド

再送米政権、ミネソタ州派遣の移民職員700人削減へ

ワールド

米財務長官、強いドル政策支持再表明 FRBは国民の

ワールド

EXCLUSIVE-ロ原油収入減で財政悪化懸念、2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中