最新記事

コロナ禍

死別・失業・借金...... インドの家庭を襲うコロナ三重苦

2021年8月2日(月)20時05分
インド・アーメダバードの病院前で悲観に暮れる、夫を亡くした女性

ビシャル・メグワルさん(24)が母親を亡くして1カ月になる。だがメグワルさんの耳には、母親の薬代を借りようと友人たちに必死にメッセージを送りつつ聞いていた、母親の苦しげな息づかいが今も残っている。写真はインド・アーメダバードの病院前で悲観に暮れる、夫を亡くした女性。5月8日撮影(2021年 ロイター/Amit Dave)

ビシャル・メグワルさん(24)が母親を亡くして1カ月になる。だがメグワルさんの耳には、母親の薬代を借りようと友人たちに必死にメッセージを送りつつ聞いていた、母親の苦しげな息づかいが今も残っている。

新型コロナウイルスによるパンデミックのため、霊廟や聖堂で有名なインドの都市アジュメールで暮らすメグワルさんの貯蓄は尽き、住宅の塗装で稼いでいた所得も失われた。何よりも大きな痛手は母親を亡くしたことだ。

メグワルさんはアジュメールから電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じ、「こんな状況は今まで経験したことがない」と語る。「返済しなければならないローンもあるのに、仕事がない。そして母もそばにいない」

メグワルさんと同じように、何万人ものインド国民が肉親との死別、失業、債務という三重苦にあえいでいる。新型コロナウイルスの深刻な第2波がインドの脆弱な医療体制を崩壊に導いたためだ。

度重なるロックダウンで失業者は急増し、インドの多くの家庭では貯蓄が底を突いてしまった。パンデミックの影響を受けた世帯は、発症した親族の治療費を自ら賄わざるを得ず、借金に頼る例も多い。

新規感染者が減少するにつれて、国内のロックダウンは解除され始めている。だがインド経済は新型コロナにより深刻な打撃を受け、昨年来、過去最悪の景気後退を味わい、各世帯は仕事が乏しい中で多額の債務を返済するという大きな困難を抱えている。

中央銀行であるインド準備銀行は成長予測を下方修正し、エコノミストらは、手形不渡り率から質流れした宝飾品の額に至るまで、インド経済の苦境の程度を示すさまざまなデータを指摘している。

かさむ治療費

メグワルさんは、病に倒れた母親を何とか政府系の病院に入院させることができた。だが、薬から酸素マスクに至るまで、治療に必要なものはすべて自分で購入しなければならなかった。薬局はどこも通常の2倍の価格を吹っかけてきた。

「我が家は決して豊かな方ではないが、貧しくもなかった」とメグワルさんは言う。パンデミック前は、父親が建てた住宅の塗装を担当していた。

「父と私の2人で稼いでおり、十分に食べて行けた。だが昨年のロックダウンで仕事がなくなり、生き延びるための食費と光熱費などで貯蓄は使い果たした」

インドの失業率が過去12カ月間で最悪の11.9%に達する中で、メグワルさんはポーターとして働き、辛うじて1日約300ルピー(約440円)を稼ぐだけだ。母親の治療のために借りた6万ルピー(約8万8000円)をどうやって返済するか、途方に暮れている。

メグワルさんの母親が亡くなる2週間前、墓廟タージマハルで有名なインド北部の都市アグラの街路で、主婦レヌ・シンガルさん(45)は夫を乗せたオート三輪タクシーを急がせていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍、太平洋側で「麻薬船」攻撃 14人殺害=国防長

ビジネス

マイクロソフト、オープンAIの公益法人転換に合意 

ビジネス

米住宅価格指数、8月は前月比0.4%上昇=FHFA

ビジネス

米国株式市場・序盤=主要指数が最高値更新、アップル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中