最新記事

東京五輪

開会式で話題のピクトグラム、64年の東京大会で初採用 漢字文化だから生まれた必然性

2021年8月5日(木)17時30分
青葉やまと

誰にでもわかりやすいピクトグラムが五輪として初めて本格採用された理由には、世界でも数少ない漢字文化を持つ国だったという事情が大きく影響している。建築とデザインを専門とする米メトロポリス誌は、独自の言語システムを持つ日本だからこそ、オリンピックの開催国となるにあたって新たなコミュニケーション手段へのニーズが強かった、と分析する。

同誌は「日本語は日本以外では広く使われていないため、オリンピック中のウェイファインディング・システム(標識などによる誘導システム)を、アスリート、ジャーナリスト、関係者、旅行客にとって判読可能とするため、別のコミュニケーション手段が求められたのだ」と述べ、「ピクトグラムの初の採用は、真のブレークスルーだった」と評価している。

絵で説明する試みはさらに昔から

オリンピック以外での使用も含めた広義の「絵文字」に目を向けると、その発明はさらに時代をさかのぼる。1920年ごろ、オーストリアの哲学者・社会経済学者であるオットー・ノイラートが、アイソタイプと呼ばれる図案をすでに考案している。これにより、婚姻者数の変化や人口あたりの畜産の数など、社会的な動向を一般の人々にわかりやすく伝えることが可能になった。統計情報を図解するというコンセプトは、今でいうインフォグラフィックにも通じるものがある。

また、歴代オリンピック大会においても、言語の壁をイラストで解決しようという発想は古くから見られる。1912年のストックホルム五輪ですでに絵による説明が試みられており、1948年のロンドン大会では各競技を表す図案が本格的に採用されている。ただし、これらは人物や競技の器具などをそのまま描いた、イラストに近い様式だ。シンプルで統一的な図案にまとめ、より視認性の高いピクトグラムのスタイルが登場したのが、64年の東京五輪からということになる。

その後、デザインのバトンは1972年のミュンヘン五輪まで引き継がれる。ミュンヘンではすでに高い完成度にあった東京五輪でのピクトグラムをベースに、45度の線に沿った直線的なデザインに昇華させた。ピクトグラムを手掛けたのは、20世紀ドイツを代表するデザイナーのオトル・アイヒャー氏だった。スミソニアン・デザイン博物館の学芸員であるエレン・ルプトン氏は、スミソニアン誌に対し、アイヒャー氏がアルファベットの形状を理想としていたと語る。その開発過程は、競技者のシルエットを使って新たなフォントを製作するかのような作業だったという。

2021年の開会式で話題をさらったピクトグラムには、1964年の東京五輪を含めた興味深い歴史があったようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

「ロボタクシー撤退」の米GM、運転支援技術に注力へ

ビジネス

米キャタピラー、通期売上高は微減の見通し 需要低迷

ワールド

欧州委員長、電動化や競争巡りEUの自動車業界と協議

ワールド

米高裁、21歳未満成人への銃販売禁止に違憲判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中