「一度壊れると元には戻らない」 コロナに打ち勝つ免疫力にも関わる『最重要臓器』とは
実際、臨床の現場では、肺の手術が決まっている患者さんに、手術の1週間前から肺の機能を鍛えるためのトレーニングをしてもらいます。
失った肺胞そのものを復活させることはできませんが、呼吸筋を鍛えることで呼吸する力を強化し、血液を取り込む酸素量を増やすことはできるのです。
その方法として、呼吸器研究、循環器研究、自律神経学をもとに考案したのが「肺活トレーニング」です。
今回は拙著『最高の体調を引き出す 超肺活』から、肺の力を復活させる「肺活トレーニング」を2つご紹介いたします。
呼吸筋を鍛えるトレーニング2選
肺活トレーニングとは、肺のまわりの呼吸筋群を鍛え、呼吸する力を強化し、肺の機能を高めるエクササイズです。行う時間帯に決まりはありませんので、好きな時間帯(できれば食後30分は避ける)に行ってみてください。無理のない範囲で、毎日1セット~3セットを行うのがよいでしょう。
まずご紹介するのは胸郭のトレーニングです。
続いて、肩甲骨周りのトレーニングです。
いかがでしたでしょうか?
ご紹介したトレーニングを含めた「肺活トレーニング」を、一般の方に2週間試していただきました。そのなかで、肺年齢が91歳だった52歳の男性が、2週間後に48歳まで肺年齢が若返るという驚きの検査結果が報告されました。
死を意識して気づいた「ただ呼吸できる幸せ」
今回は、肺がどんな役割を果たしているのか、肺機能が衰えると何が起こるのか、そして肺機能をよみがえらせるためにベストなトレーニング法を紹介しました。
かくいう私も、肺と呼吸の大切さを痛感した出来事があります。ある日を境に、ゴホゴホと咳が止まらなくなり、普段通りの呼吸ができなくなってしまいました。
ぜんそくになってしまったのかと思いながらも、ちょうどニューヨークへの出張が決まっており、さまざまな薬をもって渡米しました。ところが到着すると症状はさらに悪化し、咳が止まらないどころか、数十秒、呼吸まで止まってしまったのです。
呼吸ができない時間はとてつもなく長く感じました。「大丈夫、すぐに戻る」と自分に言い聞かせながら、なんとか平静を保とうとするものの、「死」という文字が脳裏に浮かびました。
現在は適切な治療によって症状は落ち着きましたが、思いがけず死にかけたことで「ただ呼吸できること」がいかに幸せなことか、ひしひしと感じました。
肺炎などで呼吸器が病気になると、筆舌しがたい苦しみを味わうことになります。肺の機能の衰えは自覚症状が少ないため、「思いがけず病気になる」人がほとんどです。
とくにいまは新型コロナウイルス感染症の流行で、肺はこれまで以上のリスクを抱えています。
呼吸ができない苦しみを味わわないためにも、拙著『最高の体調を引き出す 超肺活』内で紹介している「肺活トレーニング」を通して、いまのうちからしっかりと肺をメンテナンスしていってください。
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。スポーツ庁参与。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。近著に『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』、『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。