古代エジプトの水中寺院遺跡から、2100年前の軍艦を発見 海底に消えた大都市の遺物
古代エジプトの水没都市「トーニス・ヘラクレイオン」の遺跡 (c)Franck Goddio/HILTI Foundation
<エジプトとフランスの合同チームが、かつて伝承上の都市ともいわれた港湾都市の遺物をまたひとつ発見した>
軍艦が発見されたのはエジプト沖合、古代エジプトの水没都市「トーニス・ヘラクレイオン」の遺跡の中心部だ。同都市は古代エジプト最大級の港湾都市であったという伝説が残されているものの、史実として存在したのかは長いあいだ謎に包まれていた。
2000年に入り、ヨーロッパ海洋考古学研究所(IEASM)の創設者であるフランク・ゴディオ博士が海中で神殿の遺跡を発見したことで、初めてその存在が立証される。場所はエジプト北部、アブキール湾沖7キロの海底であった。エジプト神のアメンを祀ったこの神殿は、街の中心部を構成していたと考えられている。付近からはこれまでに、高さ5メートル規模の3体の巨大な石像や、参道の遺構などが発見されている。
Sunken Egyptian treasures on show at the British Museum
IEASMは今回、エジプトとフランスの合同調査チームを指揮し、同地点へあらためてダイバーを送り込んだ。神殿付近を探索していたところ、水底に堆積した泥の層のなかから古代エジプトの軍用船の発見に至った。保存状態は非常に良好であり、調査を率いたゴディオ博士は声明のなかで「このように古い高速船が無傷の状態で発見されることは非常に稀なことです」と喜びを表現している。
ナイルの恵みが劣化を防ぐ
船は海底の沈殿物の層に埋もれていたものの、ソナー探査に反応があったことから発掘チームが埋蔵物の存在に気づいた。チームが神殿跡のがれきの下を探索したところ、海底の硬い粘土層を5メートルほど掘り進んだところで船を掘り当てたという。船は長さ25メートルほどの大きさで、学校のプールに浮かべればほぼその全長に匹敵するスケールだ。
通常ならば塩分による損傷が激しい海中という条件で、奇跡的にも船体は2100年間をほぼ無傷で過ごしたことになる。良好な保存状態に一役買ったのが、ナイル川の恵みだ。美術・考古学関連のニュースを伝えるアート・ニュースペーパー誌はトーニス・ヘラクレイオン遺跡全般の保存状態について、「ナイル川が運んだ粘土質の泥土を含む堆積物が、遺物を化学的にも物理的にも侵襲する海水に対する保護層として機能している」と解説する。
Archaeologists find 2,200-year-old ancient Egyptian shipwreck
今回発掘された船は、紀元前100年ごろの現役当時には軍用船として活躍していたようだ。調査を率いたIEASMは、船の長さに対して幅が6分の1ほどに抑えられていることから、水の抵抗を減らしてスピードを稼ごうとしていたとみている。米技術解説誌の『ARSテクニカ』によるとゴディオ博士も、積載量を確保したい客船や貨物船とは明らかに違うつくりであることから、速度重視の軍艦だったのではないかと考えているようだ。