最新記事

遺跡

古代エジプトの水中寺院遺跡から、2100年前の軍艦を発見 海底に消えた大都市の遺物

2021年8月6日(金)16時15分
青葉やまと

古代エジプトの水没都市「トーニス・ヘラクレイオン」の遺跡 (c)Franck Goddio/HILTI Foundation

<エジプトとフランスの合同チームが、かつて伝承上の都市ともいわれた港湾都市の遺物をまたひとつ発見した>

軍艦が発見されたのはエジプト沖合、古代エジプトの水没都市「トーニス・ヘラクレイオン」の遺跡の中心部だ。同都市は古代エジプト最大級の港湾都市であったという伝説が残されているものの、史実として存在したのかは長いあいだ謎に包まれていた。

2000年に入り、ヨーロッパ海洋考古学研究所(IEASM)の創設者であるフランク・ゴディオ博士が海中で神殿の遺跡を発見したことで、初めてその存在が立証される。場所はエジプト北部、アブキール湾沖7キロの海底であった。エジプト神のアメンを祀ったこの神殿は、街の中心部を構成していたと考えられている。付近からはこれまでに、高さ5メートル規模の3体の巨大な石像や、参道の遺構などが発見されている。

Sunken Egyptian treasures on show at the British Museum


IEASMは今回、エジプトとフランスの合同調査チームを指揮し、同地点へあらためてダイバーを送り込んだ。神殿付近を探索していたところ、水底に堆積した泥の層のなかから古代エジプトの軍用船の発見に至った。保存状態は非常に良好であり、調査を率いたゴディオ博士は声明のなかで「このように古い高速船が無傷の状態で発見されることは非常に稀なことです」と喜びを表現している。

ナイルの恵みが劣化を防ぐ

船は海底の沈殿物の層に埋もれていたものの、ソナー探査に反応があったことから発掘チームが埋蔵物の存在に気づいた。チームが神殿跡のがれきの下を探索したところ、海底の硬い粘土層を5メートルほど掘り進んだところで船を掘り当てたという。船は長さ25メートルほどの大きさで、学校のプールに浮かべればほぼその全長に匹敵するスケールだ。

通常ならば塩分による損傷が激しい海中という条件で、奇跡的にも船体は2100年間をほぼ無傷で過ごしたことになる。良好な保存状態に一役買ったのが、ナイル川の恵みだ。美術・考古学関連のニュースを伝えるアート・ニュースペーパー誌はトーニス・ヘラクレイオン遺跡全般の保存状態について、「ナイル川が運んだ粘土質の泥土を含む堆積物が、遺物を化学的にも物理的にも侵襲する海水に対する保護層として機能している」と解説する。

Archaeologists find 2,200-year-old ancient Egyptian shipwreck


今回発掘された船は、紀元前100年ごろの現役当時には軍用船として活躍していたようだ。調査を率いたIEASMは、船の長さに対して幅が6分の1ほどに抑えられていることから、水の抵抗を減らしてスピードを稼ごうとしていたとみている。米技術解説誌の『ARSテクニカ』によるとゴディオ博士も、積載量を確保したい客船や貨物船とは明らかに違うつくりであることから、速度重視の軍艦だったのではないかと考えているようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかん

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 9
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中