最新記事

遺跡

古代エジプトの水中寺院遺跡から、2100年前の軍艦を発見 海底に消えた大都市の遺物

2021年8月6日(金)16時15分
青葉やまと

海に沈んだ「3つの」都市

トーニス・ヘラクレイオンの都市は、古くから考古学者たちを悩ませてきた。古代エジプトの一大都市として、アレクサンドリアおよびカノープスの街に並ぶ要衝であったと伝承には残るものの、実際に存在した証拠が長らく確認されてこなかった。

海洋考古学を専門とするゴディオ博士はエジプト政府の依頼を受け、海に沈んだとされる3つの都市、カノープス、トーニス、ヘラクレイオンの探索に着手する。1999年にカノープスが発見されるも、残る2つの都市の手がかりは浮かばない。ゴディオ博士のチームはその2年後、ついに真相を見出すことになる。チームのダイバーが水中から引き上げた石碑には、トーニスとヘラクレイオンの両都市名が併記されていた。トーニスとヘラクレイオンは2つの都市を指すのではなく、どちらも同じ都市を指す別名だったのだ。

これまでに発見された遺物から、トーニス・ヘラクレイオンは、紀元前500年代から同300年代にかけて栄華を誇ったことがわかっている。米スミソニアン誌は、都市はアメン神殿を中心に広がっており、運河や大規模な墓地などが存在したと伝えている。紀元前331年にアレクサンダー大王がアレクサンドリアを建設すると、エジプト最大の港の座を明け渡すこととなり、都市はゆっくりと衰退の路をたどる。

かつての勢いを失ったトーニス・ヘラクレイオンを、その後さらなる悲劇が襲う。紀元前100年代に発生した複数の大地震を受け、粘土質の地層が液状化したことで地盤が緩み、街の至るところで建物の崩壊に至ったのだ。ARSテクニカ誌によると、アメン神殿の崩落もこの時期に起こったと考えられている。湾に停泊していた軍用船を遺跡の石材が直撃し、船はその後2100年間を海の底で過ごすことになった。

広大なトーニス・ヘラクレイオンの遺跡のうち、これまでに調査が完了したのはわずか5%に満たない。海中での作業は困難を極めるとゴディオ博士は述べるが、今後の発掘調査により、謎めいた古代都市の全容が徐々に解き明かされそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中