古代エジプトの水中寺院遺跡から、2100年前の軍艦を発見 海底に消えた大都市の遺物
海に沈んだ「3つの」都市
トーニス・ヘラクレイオンの都市は、古くから考古学者たちを悩ませてきた。古代エジプトの一大都市として、アレクサンドリアおよびカノープスの街に並ぶ要衝であったと伝承には残るものの、実際に存在した証拠が長らく確認されてこなかった。
海洋考古学を専門とするゴディオ博士はエジプト政府の依頼を受け、海に沈んだとされる3つの都市、カノープス、トーニス、ヘラクレイオンの探索に着手する。1999年にカノープスが発見されるも、残る2つの都市の手がかりは浮かばない。ゴディオ博士のチームはその2年後、ついに真相を見出すことになる。チームのダイバーが水中から引き上げた石碑には、トーニスとヘラクレイオンの両都市名が併記されていた。トーニスとヘラクレイオンは2つの都市を指すのではなく、どちらも同じ都市を指す別名だったのだ。
これまでに発見された遺物から、トーニス・ヘラクレイオンは、紀元前500年代から同300年代にかけて栄華を誇ったことがわかっている。米スミソニアン誌は、都市はアメン神殿を中心に広がっており、運河や大規模な墓地などが存在したと伝えている。紀元前331年にアレクサンダー大王がアレクサンドリアを建設すると、エジプト最大の港の座を明け渡すこととなり、都市はゆっくりと衰退の路をたどる。
かつての勢いを失ったトーニス・ヘラクレイオンを、その後さらなる悲劇が襲う。紀元前100年代に発生した複数の大地震を受け、粘土質の地層が液状化したことで地盤が緩み、街の至るところで建物の崩壊に至ったのだ。ARSテクニカ誌によると、アメン神殿の崩落もこの時期に起こったと考えられている。湾に停泊していた軍用船を遺跡の石材が直撃し、船はその後2100年間を海の底で過ごすことになった。
広大なトーニス・ヘラクレイオンの遺跡のうち、これまでに調査が完了したのはわずか5%に満たない。海中での作業は困難を極めるとゴディオ博士は述べるが、今後の発掘調査により、謎めいた古代都市の全容が徐々に解き明かされそうだ。