最新記事

東京五輪

女子陸上短距離ジョイナーの「伝説と疑惑の世界記録」は東京で破られる?

Joyner’s Records Could Be Broken in Tokyo, Her Husband Says

2021年7月29日(木)19時23分
マギー・ジャイル

世界を熱狂させたフロレンス・ジョイナーはソウル五輪後に引退。1998年、てんかんによる心臓発作で睡眠中に38歳の若さで亡くなった。

「彼女に会えば、誰でもすぐに好きになる」と、亡き妻との間に娘のメアリーがいるアル・ジョイナーは話す。「(今の選手も)彼女の名前は知っているが、当時彼女が巻き起こした衝撃は想像もつかないだろう」

自分のスタイルを貫いた点でも、彼女が与えた影響は大きい。100mの世界新を出した直後のインタビューではこう語っている。「お決まりのやり方に従うのは苦手。自分らしさを大事にしたい。違ったカラーを打ち出したい。支給されるウエアはあまりに標準的で魅力に欠ける」

今のスプリンターは記録で彼女の背中を追うだけでなく、長い爪などトラックでの派手なスタイルも真似している。アメリカのリチャードソン選手は、爆発的なスタートの技でもフロー・ジョーの再来と言われるが、ファッションのセンスも似ている。東京に向けた代表選考会では、炎を思わせるオレンジ色の髪をなびかせて疾走した。だがその後のドーピング検査で、禁止薬物のマリファナの使用が発覚。資格停止となり五輪には出場できなくなった。

それでも、いずれはリチャードソンが100mの記録を塗り替えると期待する声は多い。

妻に「駆けっこ」で負けて

「リチャードソンと(ジャマイカの)エレイン・トンプソンの走りは亡き妻を思わせる」と、アル・ジョイナーも言う。「彼女たちは(記録に)迫れるだろう。自分ならできると自信を持っているからだ」

200mの記録も破られる可能性がある。

2020年6月に行われたアメリカの代表選考会では、ハーバード大学出身の疫学者でスプリンターのガブリエル・トーマスが200mで歴代2位の21秒61をたたき出した。アル・ジョイナーはたまたまスタンドでそのレースを見ていた。

「彼女はもっと速く走れると思っている。必要なのはそういうメンタルだ」と、再婚し、今はコーチング業に携わっている彼は話す。

世界新を樹立できるかという質問に、トーマス自身はこう答えている。

「自分に限界を設けたくないから、手が届かないとは言わない」

アル・ジョイナーは亡き妻に初めて会ったときのことを今でも鮮明に覚えている。アメリカがボイコットした1980年のモスクワ五輪の代表選考会でのこと。通路ですれ違っただけだが、印象は強烈だった。だが初デートはその6年後。2人は1987年に結婚した。

結婚後まもなく、彼は自身の競技キャリアを終え、妻のサポート役に回り、最大の理解者となった。決断のきっかけは、トラックで妻と1対1の勝負をしたことだ。

彼はあっさり負けた。

「それで潔くトラックを去り、コーチングに転向したんだ」と、アルは笑う。「彼女は僕を負かしたことが嬉しくないようだったが、どのくらい差をつけられるか確かめたかったらしい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、イラン指導者殺害や体制転換の扇動「容認で

ワールド

OPECプラス8カ国、4月に増産開始で合意 イラン

ワールド

イラン首都照準に2日目攻撃、トランプ氏は反撃に警告

ワールド

プーチン氏、ハメネイ師殺害は道徳規範と国際法に違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 3
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 4
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKI…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 8
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 9
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 10
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中