最新記事

東京五輪

コーチもいないオーストリアの数学者が金メダル、自転車ロードレースで番狂わせ

2021年7月28日(水)17時00分
松岡由希子

プロ契約を結んでおらず、コーチもスタッフもいない REUTERS/Christian Hartmann

<東京五輪の自転車女子個人ロードレースで、数学者である世界ランキング94位のオーストリア代表アナ・キーゼンホファー選手が金メダルを獲得した>

2021年7月25日に実施された東京五輪の自転車女子個人ロードレースで、数学者である世界ランキング94位のオーストリア代表アナ・キーゼンホファー選手が金メダルを獲得した。

キーゼンホファー選手は、武蔵の森公園(東京都調布市)から富士スピードウェイ(静岡県)までの137キロにわたるコースで、残り約40キロの地点から独走し、優勝候補と目されていたオランダ代表アネミック・ファン=フルーテン選手らを見事に振り切って3時間52分45秒でゴールした。

コーチもスタッフもおらず、トレーニングの計画なども自身で

オーストリア国内大会の個人タイムトライアルで3度の優勝実績を持つキーゼンホファー選手は、2018年以降プロ契約を結んでおらず、コーチもスタッフもいない。食事の管理やトレーニングの計画なども自身で行ってきた。

「自分のことを自分でやる方が好きだから」とその理由を明かす。この2年は、暑さ対策を含め、東京五輪に向けて着実に準備をすすめてきた。「自分自身が自分の上司であることを楽しんでいる。どのレースに参加するかはこれからも自分で決めたい」と語る

「番狂わせ」と評されるレースだけでなく、数学者というユニークなバックグラウンドもキーゼンホファー選手が世界的に注目を集めているゆえんだ。

キーゼンホファー選手は、英ケンブリッジ大学で修士号を修了した後、2016年にスペイン・カタルーニャ工科大学で博士号を取得し、2017年からスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に博士研究員として所属している。専門分野は偏微分方程式で、2021年6月には、キーゼンホファー選手らの研究チームがまとめた研究論文が数学学術誌で掲載されている。

オーストリア国中で祝う

オーストリアの代表選手が夏季オリンピックで金メダルを獲得するのは2004年アテネオリンピック以来4大会ぶりで、自転車競技では、1896年アテネオリンピックでアドルフ・シュマール選手が金メダルを獲得して以来125年ぶりとなる。25日にはアレクサンダー・ファン=デア・ベレン大統領が祝意を伝えるなど、キーゼンホファー選手にはお祝いのメッセージが母国から次々と寄せられた。

オーストリア自転車競技連盟(ORV)のハラルド・マイヤー会長は「キーゼンホファー選手の金メダルは歴史的な快挙だ。我々のロールモデルであるキーゼンホファー選手の偉業を国中が祝っている」と大いに称えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中