最新記事

ブロックチェーン

周到に準備されてきた中国ブロックチェーン覇権、来年ついに実を結ぶ?

China’s Big Blockchain Bet

2021年7月29日(木)17時18分
アレクサンダー・ザイチック、ケリー・リジーニー・キム、アンジー・ラウ

210803P28_CNA_03.jpg

内モンゴルにあるビットコインのマイニング施設 QILAI SHENーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

その頃には、国内的にも金融政策の大胆な見直しを迫られていた。例えば、銀行口座を持たない国民が4億人もいた。だから彼らを貧困から脱却させる妙案が欲しかった。

08年には国内ベンチャーのアリババが、スマホ普及の波に乗って携帯端末による電子決済サービスを開始した。しかし民間企業に任せていたら国家による監視の目は行き届かず、資金の動きがつかめなくなる。それは困る。

一方で12年前後に、当局は内モンゴルなどの僻地で電力需要が激増していることに気付いた。高性能なコンピューターと巨大なサーバーを備えた倉庫のような施設が、あちこちでフル稼働していた。

それは仮想通貨ビットコイン(中国では比特帀〔ビタビ〕と呼ばれる)のマイニング(採掘)工場だった。数年前のピーク時には、世界のビットコインの推定95%が中国国内で「採掘」されていたという。

この仮想通貨は銀行にも国家にもつながっていない。全ての取引は、ネットワークに参加する全コンピューターに伝えられ、認証され、分散型台帳(ブロック)の長大な鎖(チェーン)として永久に記録される。

その脅威と可能性を、中国政府は直ちに理解した。中国人民銀行は14年に官製ビットコインの可能性を探り始めた。国内では、既に物理的な紙幣の流通が減っていた。

昨年にはデジタル人民元の実証実験

「多くの国の政府がまだビットコインの基本も知らない頃から、中国政府は『採掘』作業のセキュリティー確保に取り組んでいた」と言うのは、北京を拠点とするシノ・グローバル・キャピタルの副社長イアン・ウィットコップ。「それがブロックチェーンと暗号資産のエコシステムの発達につながった」

昨年10月には、デジタル人民元の大規模実証実験の準備が整った。抽選で50万人以上に計1億5000万デジタル人民元(約25億円)が配布され、約7万の実店舗とネット通販で使えることになった。

その半年後には誰にでも参加できる形の実証実験も行われた。ついにデジタル人民元が、国家の監視の下で実社会に放たれたのだ。

新しい通貨の導入は、五輪の開会式以上の国家プロジェクトだ。だから慎重にも慎重を期す必要があったと、シドニーのロウイ国際政策研究所で中国経済と貿易政策を研究するピーター・ツァイは言う。

「間違いが起きたら多大な犠牲を払うことになる。金融、銀行、決済システム、金融政策に与える総合的な影響を明確に把握している人は、まだ中国にもいない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中