最新記事

ドキュメント 癌からの生還

最先端!がんセンター東病院トップが明かす「若者」「バカ者」「よそ者」な医師たち

2021年7月21日(水)11時50分
金田信一郎(ジャーナリスト)

──ほかの病院では、放射線治療とか外科手術とか、患者が選びにくいものなんですか。

だいたい、行ったところ(治療科)で決まりますよね。患者さんが外科に行けば、その科で全部見ることになります。抗がん剤も含めて。昔は抗がん剤専門の内科医は少なく、外科の先生方が中心的だったので、そんな感じでした。

──東大病院がそうでした。医師チーム全員が外科医でしたし、抗がん剤も外科の先生たちにやってもらいました。東病院では、内科が抗がん剤治療を担当してくれました。外科が主導という感じではないですね。

うちの外科医は、外科医らしくないのかもしれません(笑)。腕の良い外科医が揃っているけれど、伝統的に近寄り難い感じはありません。内視鏡治療などで、まれに消化管が穿孔したりすることがありますが、そうすると外科の先生方が嫌な顔もせずに手術をしてくれます。

ゲノム関係は内科がリードしてプロジェクトを進めていますが、周術期の薬物療法などは外科が中心となるようにバックアップしている。なかなかできないことです。それで、内科がいろいろな実績を上げることにもつながっている。ESD(内視鏡切除)を最初に実践したのも、この病院です。

──ESDの最初の症例は胃でしたよね。

そうです。私が担当したわけではないんですけど、立ち会いました。放射線と抗がん剤の併用治療も、日本では草分けでした。

──それはいつ頃のことですか。

開院して間もない頃です。新しい薬の治験もたくさんやっていました。(抗がん剤の)S--1もそうです。「こんな経口剤で効くの?」と思っていましたけれど、本当に驚くほど効きました。

2000年頃に分子標的治療薬が台頭してきます。がんは遺伝子の異常が積み重なって発生進展しますが、遺伝子解析技術が進歩して、その遺伝子異常に適した薬を開発するようになりました。残念ながら、「国際共同治験」という枠組みになった時に、日本は遅れをとってしまいました。

──なんで遅れてしまったんですか。

治験が国際化していく中で、日本の施設が参加できず、新薬開発が何周遅れにもなってしまった。今のコロナワクチンの開発のような感じでした。新しく開発された薬剤を患者さんに届けることもできず、研究もすべて遅れるわけです。

2005〜2006年頃に国際治験に参加し、私は海外で先端的な研究をする人たちと話をするようになって、考え方がかなり変わりました。それまでは承認された薬剤で治療するのが自分たちの研究(のやり方)でした。でも、国際的な治験に最初から入っていないと決定的に遅れます。最初に治験をするには、臨床だけではなく、基礎研究の視点が重要だと頭を切り替えられました。

日本は化合物の抗がん剤は強かったけど、分子標的薬の波が来て、さらに生物製剤的なものが開発の中心になった時、日本の研究は遅れてしまい、2005年ぐらいにはどん底に陥りました。そこから国際治験に積極的に入り出して、ようやく追いついてきましたが、10年はかかりましたね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米との核協議再開に向けサウジ皇太子に説得要

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、12月利下げに「不安」 物価デー

ビジネス

米国株式市場=序盤の上げから急反落、テクノロジー株

ワールド

トランプ氏の首都への州兵派遣、米地裁が一時差し止め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中