最新記事

熱波

熱波のバンクーバー、浜辺でムール貝が焼き上がる

2021年7月13日(火)17時45分
青葉やまと

水産業に致命傷

水産業への影響も深刻だ。沿岸には貝類の漁で生計を立てている小さな村が点在するが、収穫量は目立って減少している。すでに数年前の熱波によってムール貝が壊滅的な被害を受けており、数年かけて回復に向かう途上であった。

本来ならばムール貝は、ある程度の水温の変化に対応することが可能だ。その生息域は水深数十メートルほどまでの海底であり、水深が深ければ地上の高温の影響はかなり和らぐ。また、潮の満ち引きによって海面上に顔を出す「潮間帯」に棲む個体も、貝殻のなかに水を含むことで干からびないように対応できるしくみだ。

しかし今回の熱波は、さすがにムール貝の対応能力を超えてしまったようだ。研究者たちが現地で測定したところ、熱された岩場の表面温度は最大で50℃に達していた。貝からは水分が失われ、磯部全体が天然の調理場と化した。

被害はカキの養殖業者にも及ぶ。B.C.州の貝類養殖組合の幹部はワシントン・ポスト紙に対し、歴史的な高温による窮状を打ち明けている。通常、カキの生育には2〜3年を要する。そのため、仮に今回の熱波で8割のカキが失われたとすると、おそらく今後2〜3年は商売として成立しないだろう、と組合は悲観的だ。地元のあるカキ養殖業者は同紙に対し、「100年に1度」という触れ込みの熱波が次々とやってくるため、本当に疲弊している、とこぼす。

ヒトデ版のパンデミックも懸念

熱波により水温が上昇したことで、ウイルス性の病気の拡大が懸念されている。ブリティッシュ・コロンビア大学のハーレー教授は、水温の上昇に伴ってまん延がはじまったヒトデのウイルス被害を注視している。セイリッシュ海沿岸には、絶滅が危惧されているニチリンヒトデが棲息する。放射状に広がる多数の「腕」を持ち、その全長は最大で1メートルほどにも及ぶめずらしいヒトデだ。

連日の猛暑に伴い、このニチリンヒトデを含むヒトデたちに白い病変がみられるようになった。消耗性疾患と呼ばれるウイルス性の病気にかかっている兆候だ。この疾患は腕の硬化と皮膚上の白い斑点からはじまり、わずか数日のうちに水気が失われて腕が崩れ落ち、体が分解されて死に至る。大量死を招くヒトデのパンデミックとして近年問題になっているが、水温の上昇で加速することが研究によりわかっていることから、今後の流行が懸念される。

地元環境団体の幹部はナショナル・オブザーバー誌に対し、「緩やかな非常事態が長きにわたり続いているのです」と語り、悪化の一途をたどる気候変動への懸念をあらわにしている。温暖化の影響は世界各地に波及しており、放置すればいずれ日本でも深刻な被害を招くのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ワールド

米代表団、来週インド訪問 通商巡り協議=インド政府

ワールド

イスラエル、レバノン南部を攻撃 ヒズボラ標的と主張
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中