最新記事

中国外交

EUにも嫌われ始めた中国の戦狼自滅外交

China's 'Tone-Deaf' Diplomacy Hardens Attitudes in Europe, Brussels Expert Says

2021年7月5日(月)18時38分
ジョン・フェン

EUが3月22日に発表した制裁は、中国だけに向けられたものではなく、北朝鮮、ロシア、その他の国における人権侵害を対象としたパッケージの一部だった。この制裁はアメリカ、イギリス、カナダとも協調しているが、EUが人権侵害を理由に中国を制裁するのは、天安門広場での学生主導の抗議行動を中国政府が残忍に弾圧した天安門事件に対する1989年の武器禁輸以来初めてだ。

EUが中国を制裁する準備をしていたことは、中国指導部に知られていた。「こうしたことは、EU本部ではすぐ外に伝わってしまう」と、ファロンは言う。

その後、EUは「処罰の対象とする人物をとても慎重に選んだ」が、EUの対応は多くの人がやりすぎとみなし、親中派の人々にとっては「ほとんど政治的に擁護できない」やりかただった。

中国の報復制裁は、欧州当局者と学者10人および4団体が標的となった。そのなかにはEUの対中関係代表団の団長を務めるラインハルト・ビュティコファー議員(ドイツ緑の党)がいた。全加盟国の大使で構成されるEUの主要な外交政策意思決定機関である政治・安全保障委員会も対象となった。

制裁を発表した声明の中で、中国外務省は、EUは「過ちを是正する」必要があると述べ、さらなる措置を取ると脅した。

ねらいは米欧の分断

中国政府の対応は「まさに民主主義の仕組み」に対する攻撃だった、とファロンは言う。「それに対して反撃がこないと思うとしたら、中国はひどい間違いを犯している」

だが、はるかに心配なのは、EU本部の中国特使が本国政府により適切な対応を助言したにもかかわらず、それが見過ごされたことだ。ファロンは、特使を無視したのは中国の最高幹部かもしれないと考えている。

「私は中国の特使たちに会った。とても賢く、才能のある人々だった。本国政府の人々が特使たちの話を聞いているとは思えない」と、ファロンは言う。「習近平が都合のいいことしか伝えない人々の話しか聞いていないという危険もある。彼らは破滅的な過ちを犯している」

EUと中国の包括投資協定は、EU側の中国市場へのアクセス権拡大を約束しており、この点では中国側にあまりメリットはない。だが習にとって協定の締結はきわめて巧みな地政学的な成果となるものだった。次期バイデン政権は反対の姿勢を見せていたものの、中国とEUは昨年12月に大筋で合意に達した。

ジョー・バイデンが11月の大統領選挙に勝利した後、習がCAIを軌道に乗せるためにみずからテコ入れしたことをマスコミは指摘した。

「習はバイデンが大統領に就任する前こそ、アメリカとEUの関係に楔を打ち込むチャンスを見た」とファロンは言う。

「中国はどちらが大統領選に勝つか、結果がでるまで待っていたという感じがする。トランプが勝っていたら、中国はCAIを締結する必要はなかった。バイデンが勝った場合、中国はすばやく動かなければならなかった。だから選挙の結果が出るまで静観していたのだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中