最新記事

異常気象

「異常低温や異常高温に関連して年間500万人以上が死亡している」との研究結果

2021年7月19日(月)18時50分
松岡由希子

北米を熱波が襲っている REUTERS/Jeenah Moon

<年間500万人以上が「非最適温度」によって死亡している可能性があることが明らかとなった>

世界で年間500万人以上の超過死亡が異常低温や異常高温といった「非最適温度」に起因している可能性があることが明らかとなった。地球の気候変動と死亡率の関連を示す研究成果として注目されている。

死亡者全体の9.43%を占める

1880年以降、地球の平均表面温度は10年ごとに0.07度上昇し、1990年代以降は、その上昇幅が3倍になっている。2000年から2019年までの地球の気温は10年ごとに0.26度上昇し、産業革命以前から最も暑い期間となっている。

豪モナシュ大学と中国・山東大学の研究チームは、日本の43地点を含む、世界43カ国750地点を対象に、2000年から2019年までの異常低温または異常高温に関連する死亡率について調査し、2021年7月1日、オープンアクセスジャーナル「ランセット・プラネタリーヘルス」で研究論文を発表した。

これによると、世界で年間508万3173人が異常低温または異常高温により死亡し、死亡者全体の9.43%を占めている。この割合は、英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)らの研究チームが13カ国384地点を対象とする研究結果で示した7.71%よりも高い。異常気温に関連する超過死亡は、人口10万人あたり74人に相当する。

異常気温による超過死亡全体の50%がアジア

異常気温に起因する死亡の大部分は異常低温によるものだ。異常低温と関連する死亡者は年間459万4098人で、死亡者全体の8.52%を占める一方、異常高温と関連する死亡者は全体の0.91%にあたる年間48万9075人であった。また、2000年から2003年までの期間と2016年から2019年までの期間を比較すると、異常低温に関連する超過死亡率は0.51%低下した一方、異常高温に関連する超過死亡率は0.21%上昇している。

異常気温が死亡率にもたらす影響は地域によって異なる。異常気温による超過死亡全体の51.49%をアジアが占めており、23.88%のアフリカがこれに次ぐ。アジアとアフリカでは異常低温と関連する死亡者が多く、アジアでは年間約239万人、アフリカでは約118万人が死亡している。一方、異常高温と関連する死亡者は欧州や東南アジアで多く、欧州では年間約17万9000人が死亡している。

2019年度「世界の疾病負担研究(GBD)」では、心血管疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、下気道感染症などを引き起こすおそれがあるとして「非最適温度」が危険因子のひとつに挙げられている。

異常高温に関連する死亡が増加し続ける

研究論文の共同著者でモナシュ大学のユーミン・グォ教授は「長期的な気候変動では、異常高温に関連する死亡が増加し続けることから、死亡負荷は高まるだろう」との見通しを示し、「気候変動下での『非最適温度』の実際の影響をより正確に把握するためには、地球のあらゆる地点からデータを収集することが重要だ」と説いている

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中