最新記事

イギリス

ロックダウン解除のイギリス、20万人感染予測「シートベルトを外してアクセルをベタ踏みするくらい無謀」?

2021年7月19日(月)18時10分
青葉やまと

ロックダウン解除は「シートベルトを外してアクセルをベタ踏みするくらい無謀だ」とも言われた REUTERS/Peter Nicholls

<人口の半数以上が完全なワクチン接種を済ませたイギリスだが、新型コロナの感染が爆発している。そうした中、積極的な経済再開政策を打ち出している...>

感染者数が増加の一途をたどるイギリスは19日、イングランドのロックダウン解除に踏み切る。リモートワークの推奨が打ち切られるほか、ナイトクラブなどの営業が可能となる。これまで屋内の公共の場において着用が義務づけられてきたマスクは、引き続き着用が推奨されるものの法的規制は廃止し、店舗や交通機関に指針づくりを委ねる。

変異株の影響を受けるイギリスは現在、世界でも感染が急速に拡大している国のひとつだ。16日には5万1000人超の感染が新たに確認され、今年1月に記録したピーク値に近づいた。人口あたりの新規感染者数でみると、インドネシアとブラジルに次ぐ世界第3位(7日間移動平均値)となっている。

強気の経済再開の背景には、経済界からの要請があるほか、死者数がかなり抑制されてきている影響も大きい。ワクチンの接種が進み、これまでに人口の半数以上が完全な接種を済ませている。感染数は増加しても重症化と死亡の割合は目立って減っており、多くの死者を出した1月とは状況がかなり変化した。死者数はじわりと増加傾向にあるものの、16日のデータで1日あたり49人に留まる。1800人以上が亡くなっていた年初のピーク時とは顕著な違いだ。

感染者は10〜20万人へ 著名疫学者予測

しかし、これまで死者数を抑制できているとはいえ、変異株が猛威を振るうさなかのロックダウン解除は壊滅的な被害をもたらす恐れがある。感染予測モデルを作成しロックダウンの政策決定に寄与した疫学者のニール・ファーガソン博士は、英ガーディアン紙に対し、イギリスの医療システムに「大規模な混乱」をもたらすとの予測を明かした。

ファーガソン博士は、1日あたりの新規感染者数が10万人に達することは「ほぼ避けられない」と述べる。さらに、可能性は比較的低いものの、最悪のシナリオでは倍の20万人に達する事態もあり得るという。仮に現実のものとなれば、人口あたりの新規感染者数は最悪期のインドの9.8倍に達する。

野党・労働党で保健問題を担当するジョナサン・アシュワース議員は英BBCに対し、19日付のロックダウン解除は「シートベルトを外してアクセルをベタ踏みするくらい無謀だ」と述べ、警戒感をあらわにした。

解除直前のガイドライン発表で混乱

英政府は経済活動の再開にともない、各企業が店舗や職場などで参考とすべきガイドラインを発表している。ところが、その内容もお粗末だとして不満が噴出した。音楽フェスやスポーツイベントなどの開催を許容し、会場への入り口を分けるなどすれば安全だとしているが、実効性には疑問が残る。

また、マスクを含め店舗や公共交通機関などでの感染症対策が各企業の判断に一任されたことで、民間への責任の押し付けだとの声も挙がっている。ガイドライン発表からロックダウン解除までの猶予は5日間しかなく、各企業は急場しのぎの方針決定を迫られた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中