最新記事

クーデター

密林で虐殺された遺体少なくとも10数体発見 軍と武装市民の戦闘激化するミャンマー

2021年7月31日(土)12時43分
大塚智彦

7月26日には軍が、潜伏していたPDFのメンバー10人を逮捕したが、その後消息不明となっているという。さらに今回の5人の遺体発見とは別に軍との戦闘で少なくともPDF側に15人の犠牲者が出ているという。

こうしたカニ郡区での戦闘激化、犠牲者の増加をRFAが軍政のゾー・ミン・トゥン報道官に問い合わせているが、回答は一切ないとしている。

各地で武装市民が蜂起、軍と衝突

民主政権のスー・チー氏率いる最大与党「国民民主連盟(NLD)」がクーデターで事実上解体に追い込まれたことを受けて、NLDなどが軍政に対抗する民主組織「国民統一政府(NUG)」と軍の武力弾圧に抵抗するための武装市民組織「PDF」を組織した。

このPDFは軍の武力行使に「目には目を」と対抗するための組織で、学生や若者が国境地帯で同じく軍政と長年武装闘争を続けてきた少数民族武装組織と合流、戦闘訓練や戦場での救急措置などを学び、武器を供与されて都市部に戻り、軍と戦闘に従事している。

地方都市ではこうしたPDFメンバーが軍から人権侵害を受ける市民の保護のために軍に武力抵抗を続けている。

さらに西部チン州、北部カチン州、東部シャン州やカヤー州、カレン州などでも地元の少数民族武装組織と軍との戦闘が激しくなっており、クーデターから半年となる8月1日を前にミャンマーは実質的には既に「内戦状態」にあるといえる状況だ。

住民1500人以上が密林に避難

こうした状況を受けて国際的な人権団体やミャンマー国内で地下活動を続ける人権団体などは軍政の「蛮行、虐殺」を厳しく非難している。2月1日のクーデター以降、これまでに殺害された反軍政の市民らはすでの930人を超えているとされるが、実数はさらにこれを上回るとの指摘もある。

戦闘があったサガイン地方カニ郡区では4月2日以降の戦闘でこれまでに住民約1500人がジャングルに逃れて避難生活を余儀なくされているという。

住民によると軍が住宅に押し入り、現金や生活用品、食料を奪取したり、暴力、脅迫、家の破壊などが続いたりしたために避難したとしている。避難先のジャングルでは軍に発見されるとRPGと呼ばれるロケット弾まで撃ち込まれとこともあり、住民たちは軍に発見されないように移動を続けているという。

住民の1人はRFAに対して「ジャングルで発見されれば軍に殺されるし、自宅に留まっていても殺される」と行き場のない苦悩を明かした。

ミャンマーの民主政権復活を求める国民は軍による弾圧強化で犠牲者や避難民が増加の一途を辿っている。こうした厳しい苦しい状況のなかこの国は、クーデターから半年を迎えようとしている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中