「接種すれば現金給付」それでもロシア国民が、自国産ワクチンを信じない訳
NYET TO VACCINATION
ワクチンの移動式接種会場の外で順番を待つ人々(クリミア半島のシンフェロポリ)
<世界最速でスプートニクVワクチンを承認するも接種は遅れ気味。供給不足や国民の根強い政府不信が遅延の原因に>
ロシアは昨年8月、世界に先駆けて新型コロナの国産ワクチン「スプートニクV」を承認したが、国民はいまだに接種に及び腰だ。AP通信の報道によれば、接種促進のため首都モスクワでは当局が60歳以上の高齢者を対象に、ワクチン接種と引き換えに1000ルーブル(約1500円)のクーポンを支給しているという。ロシアの60歳以上の高齢者の年金受給額は1カ月わずか2万ルーブル(約3万円)だから、これは大きいが、接種率はなかなか伸びない。
2回接種を完了した人は5月19日時点で国民の約7%。政府は6月中旬までに国民1億4600万人のうち3000万人以上に接種することを目指しているが、目標達成のためには接種ペースを「明日にでも1日37万人に」倍増させる必要があるとロシアのデータアナリスト、アレクサンドル・ドラガンは語った。
モスクワ市民のウラジーミル・マカロフは4月、市北部のショッピングセンターでワクチン接種が行われているのを見掛けた。10分で接種できると分かったが、彼も多くの市民同様しばらく様子を見ることにした。モスクワでは18歳以上なら200カ所以上ですぐにワクチンが接種できる。国や民間の診療所、商業施設、病院、劇場でも可能だ。それでも市民は接種に二の足を踏んでいる。
昨年12月から大規模接種が始まったが、今年4月半ばまでに1回は接種した人は市民1270万人のうち100万人余りと、約8%だった。ロシア全体でも同様で、5月19日時点で1回接種した人は1477万人、2回接種を完了した人は約1000万人と総人口の約7%。5月上旬に44%が1回目の接種を終えたアメリカに大きく遅れている。
進まない要因の1つは供給
モスクワ以外の地域も奨励策を講じている。極東のチュクチは高齢者を対象にワクチン接種と引き換えに2000ルーブル、隣のマガダン州は1000ルーブルの支給を約束。サンクトペテルブルクのある劇場は接種証明書を提示すればチケット代を割引すると申し出た。
ロシアでワクチン接種が進まない要因の1つは供給だ。ロシアの製薬企業は量産体制の強化が遅れ、3月には多くの地域で供給不足が生じた。
今のところ、ロシアで入手可能な3種類のワクチン(2回セット)は2800万セットが生産された。そのほとんどがスプートニクVで、品質検査を経て市場に流通しているのは1740万セットにすぎない。
各地で接種待ちは解消されないままだ。ロシアで5番目に人口の多いスベルドルフスク州では、州保健当局によれば4月半ば時点で17万8000人が接種待ちだったという。