最新記事

ミャンマー

ミャンマーの翡翠利権は再び軍に握られた<報告>

Myanmar Military now Controlling Country's Lucrative Jade Market, Profits

2021年6月30日(水)20時51分
ジュリア・マーニン

今では国軍が採掘権を与える力をもち、忠誠心を買うのも敵となる組織を引き裂くことも思いのままだと、とディーツは語る。

翡翠産業は、貴重な石をできるだけ多く掘り出そうと誰もが先を争う無秩序な競争状態になっている。

グローバル・ウィットネスは以前の報告で、翡翠産業が軍事エリート、麻薬王、コネでつながった企業のネットワークによって支配されていることを指摘した。状況はほとんど変わっていないと、この地域に詳しい人々は言う。

この状況は紛争の両当事者に、生産を最大化する動機を生み出し、環境に莫大な負荷を与えている。地域には50万人近くが流れ込み、鉱山で働いたり、鉱山の選鉱くずを選んだりしながら、貴重な翡翠を含む石を探している。露天掘り鉱山の斜面は不安定で、土砂崩れが頻発し、これまで数百人が死亡している。

鉱業の利益は、鉱山や貿易ルートを掌握している人々に奪われる。

「翡翠は、たぶん石油を除いて軍にとって最も利益のあがるセクターだ。銅のような他の鉱業も多くの利益をもたらしている。レアアースはそれほどではないが、かなり重要だ」と、ミャンマーの環境問題を研究するプロジェクト・マジェのディレクター、エディス・ミランテは言う。

翡翠の大半は中国行き

アメリカとイギリスは、軍の指導者とその家族、および軍が支配あるいは関係している企業に対しても制裁を科している。

だがミャンマーで生産された翡翠のほぼすべてと他の宝石や真珠の大部分は、違法なルートを通じて中国に輸出されることが多いため、宝石産業に対する制裁の潜在的な影響は限定的だ。

採掘作業の多くは、ミャンマーの採掘会社と手を結んだ中国企業によって行われている。軍は数十年前から、鉱業から莫大な利益を引き出してきたし、カチン州には地域で採掘された翡翠の大半が行き着く中国への密輸ルートに課税する取り決めがある。

だが今、カチン州の人々は軍のクーデターに抗議しており、対立は激化しているとハーバード大学アッシュセンターの東南アジアの専門家であるデ-ビッド・ダピスは言った。

「多くの戦闘は、誰が何をどれだけ得るかをめぐるもの」であり、関係する当時者は誰も互いを信頼できる状態にはない、とダピスは電子メールで述べた。「軍はとにかくがっちりと守りを固めており、妥協する気配はない」

過去には、戦闘が国境を越えて広がり、中国の民間人が死亡あるいは負傷したこともあった。

だがより深刻で長期的な問題は、現場が無法状態になっていることだ。法の支配が機能を失っているため「麻薬の生産や動物の密輸など違法行為が過熱する可能性があり、中国政府はそれを翡翠の問題よりも懸念している可能性が高い」と、ディエズは述べた。

「不安定なものは不安定なもの生み出す。そのことを、特に中国政府が理解することは本当に重要だ。まさに中国との国境付近で最悪の事態が発生するところなのだ」と、彼は語った。

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中